世の中、「景気が悪い」と言っている方々が多いですが、そんなことはありません。
特に日本とアメリカと中国は本格的な景気拡大期に入ってきており、このことは金の価格構成要因の【3】GDP(国内総生産)とも密接に関係しています。
今回は、なぜ日米中で景気が拡大するのか、そして金価格への影響について、通貨安競争を踏まえて解説します。
この記事の要約
金は毎日上下動を繰り返しているが、今年はGDPが上昇する見込みで、需給も締まっている。
通貨の価値は、緩和をしている日米中が世界経済のトップクラス。
よってその影響は大きく、金の価値は上昇。
下がることがあったとしても、まだまだ金が上がる可能性の方が高い。
売る根拠が日を経るごとに減ってきているという事実を実際に見ていきましょう。
不景気と通貨安競争

景気が悪くなった場合には、通貨安戦争を仕掛ければよい、という定説があります。
- ドイツは第一次世界大戦後、賠償金のために大量の国債を発行してハイパーインフレを経験しましたが、敗戦国とはいえドイツは工業国になるので、輸出には相当有利に働いたのです。
- 日本では第二次大戦後、1ドル360円と、円の価値が大幅に割安に設定されましたが、この為替レートが後の高度経済成長につながっていきます。
第一次大戦後は各国ともに通貨安競争に走り、アメリカはそれとは関係がないという立場を取るモンロー主義に走りました。
この意味はアメリカは当時、工業国の世界第1位である欧州と比較すればまだ後進国という位置づけでした。
それがドル安を招き、輸出競争力がついたと言うことができます。
このように、国内が不景気入りをすると各国の政策は外に向き始めます。
具体的には輸出競争力になりますが、一方ではかつてのドイツや日本、現在の中国のように対外的に武力をもって侵攻する可能性も含んでいます。
GDPの4大要素と通貨安競争のサイクル
GDPとは、
1.消費
2.投資
3.政府支出
4.純輸出
で成り立っています。
このうち国内が不景気だと、1と2はどんなに喚起しても満たされません。
また不景気であればケインズ政策で政府の支出は最大限まで行っています。
こういう場合は通貨安を仕掛けて、純輸出を増やす政策を行うのです。
つまり、3の政府支出を増やして通貨安を仕掛け、4の純輸出を増やすかたちになります。
その結果、国内の消費が喚起され、投資も国内外からもたらされて、景気が回復するというサイクルが一般的です。
このように、通貨安は魔法の杖のような手段となっています。
通貨安競争が大戦をもたらす?

一方で、通貨安は相対的なものですので、ドル安になれば円高、ユーロ高、人民元高になります。
日本が輸出競争力をつけるのであれば、ドルよりも円を弱くしなければいけません。
そして円が最弱通貨になれば、今度はドルの輸出競争力に陰りが出るので、円よりも弱いドルにしようとします。
これが通貨安戦争の結末です。
第一次大戦後にこの通貨安競争が世界で起こり、より一層各国が疲弊して行き、それが第二次大戦につながったと言えるでしょう。
その反省から、通貨安競争を避けようという世界的なコンセンサスができたのです。
緩和を増やす日米中と減らす欧英諸国
日米中の緩和状況を見ていきましょう。
まずは日本。

次にアメリカ。

最後は中国です。

このように、日米中の3ヵ国は緩和量を増やし、通貨安政策を行っています。
一方でユーロ圏を筆頭にイギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどの西側主要国は緩和量を減らしているのです。
特にユーロ圏は下記のグラフのとおり、緩和量を大幅に減らしている上に、インフレ対策として連続利上げも行っています。

それに対して日本はゼロ金利維持、アメリカは利上げ停止の可能性、中国は連続利下げや緩和の増大を行っており、一般的には通貨安政策を行っているのです。
ゆえに将来の景気は、日米中が浮揚して、ユーロ圏を筆頭とする英豪などは景気の減速が見込まれます。
為替相場への影響
こうした緩和状況を受けて、為替相場はどうなるのでしょうか。
為替相場で世界の4割を占めると言われるユーロドル相場は「ユーロ>ドル」となり、ユーロが高騰する結果となるでしょう。
ユーロドルのレートを見ると以下のようになっています。

青棒線のユーロの緩和量に、ユーロドルレートを合わせたグラフですが、ユーロ圏の緩和が増えているときには、ユーロドル相場が急騰していることがわかります。
反対にドル、円、元のマーケットは下がっていることがわかるでしょう。
通貨価値の金価格への影響
今後の見通しに関して、ドル・円・元の経済圏の金価格は、通貨安からの金上昇がわかります。
反対にユーロ圏では下落です。
ただし、ドル建て金価格を円換算すると「ドル建て金価格÷31.1035×ドル円レート」となるように、ユーロ圏で買おうが東京で買おうが、ニューヨークで買おうが金の値段は同じだということがわかります。
そうなると、通貨の価値は金の価格にはあまり関係がない、ということになるのです。
そこで、金の価格構成要因を考えてみましょう。
【1】ドル
【2】金利
【3】GDP
+需給
このうち通貨に関連する【1】ドルと【2】金利を省くと、残りは【3】GDPと+需給になります。
需給に関しては、主に中央銀行の買いによって今後も需給が引き締まるので強いと予測が成り立ちます。
GDPの金価格への影響
基本的にGDPは毎年のように成長するので、金の価格にはポジティブに働きます。
では、現在のGDP順位を見てみましょう。
1位 アメリカ
2位 ユーロ圏
3位 中国
4位 日本
今まではユーロ圏が緩和の最大量を占めていたので、ユーロ建ての金が理論上では高ったはずで、日本も万年緩和を行っているので、高いままになります。
今、緩和を行っているのは1、3、4位の日米中で、2位のユーロ圏は金融引き締めを行っている状態です。
ちなみに、上位4ヵ国で世界のGDPの80%を占めます。
このうち、引き締めを行っているのは1ヵ国だけとすれば、世界のGDPは自動的に上昇します。
金の価格はGDPにも連動しているので、自動的に上がるということ。
つまり、どう見ても現在、金を売る根拠がなくなっているという結論に達するのです。