金地金が最高値を更新した理由には、FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ期待のほかに対米輸出の金地金に関税をかけないことが決まったこともあります。
この記事の要約
前回の記事では、金価格が9月2日に3500ドルの大台に乗った理由を、8月22日のジャクソンホール会議におけるパウエルFRB議長の「利下げ検討」発言をもとに解説しました。
ただし、これについては憶測で買っているにすぎず、「噂で買って、事実で売る」展開になる見込みが高いと結論付けています。
今回の記事では、トランプ大統領が金地金に関税をかけないと決めたことが金の新高値更新にどう影響したかについて解説します。
- 金の国際価格と国内価格の違いとは?
- 上記を利用したロンドンで金を買い、ニューヨークで売ることでサヤを抜く取引とは?
- トランプ「貴金属関税」発言と撤回の影響とは?
では、始めましょう。
上昇する対米貴金属・鉱石等輸入額
2024年までのアメリカの真珠や貴金属、鉱石、メタル、コインなどの輸入額を見てみましょう。

2020年から大幅に増加している背景にあるのは、コロナ禍の発生です。
株価が急落したことでドルも急落し、価値の下がらない宝石や貴金属鉱石、地金、コインなどの輸入が増加したことによります。
金には国際価格と国内価格がある
金の価格は、香港でも東京でもニューヨーク(NY)でもロンドン(LDN)でも同一です。
これはインターネットの世界では、例えば東京市場が10万円安く値付けされたとすれば、トレーダーが安い東京の金を買い、NYの高い金を売るという行為に出ます。
結果として1、2秒で東京もNYも価格が平準化されるのです。
ただしこれは取引所についてであり、現物の販売業者では国内の需給によって価格が安くなったり高くなったりします。
例えば下記のグラフは、中国とインドの国内金価格と国際金価格(一番左の軸の0)の乖離を表しています。

このように、価格差を主体にした取引が今も存在するのです。
LDN-NY現物取引の流行と「貴金属関税」発言

今年から金の高騰が続きました。
こうした流れの中で、通常ではNYとLDNの金の価格差は5ドルもあれば大きい方ですが、今年のピークには実にその10倍、50ドルにまで広がったのです。
そこで安いLDNで金を買い、高いNY市場で売ることでサヤを抜くという取引が大流行しました。
結果、LDNでは金地金の品不足が起こり、通常4営業日程度のところ、調達に1ヵ月以上を要する事態にまで発展しました。
トランプ大統領の「貴金属に関税をかける」発言があったのは、こうした状況の中でのことでした。
LDN-NYの現物取引でサヤを抜いている業者からすれば、まさに青天の霹靂です。
仮に関税を15%ドル建て金価格3500ドルとして計算するとプラス525ドル。
ただでさえ通常よりも高いNYの現物価格がそれ以上に高くなれば、売れるかどうかさえわからなくなります。
今後の影響は?

しかし9月5日、トランプ大統領はこうした関税を課さないという大統領令に署名しました。
結果、LDN-NYの現物取引が安泰だということで、ますますNY市場で高くなった可能性があります。
アメリカでバラマキのし過ぎによってドルの価値が低下している間は、金や宝石の人気は衰えないでしょう。
ただし、このサヤ取りは安い輸出国があることが前提であり、ロンドンが安いままでいる保証はどこにもありません。
早晩行き詰まることとなる反面、高いアメリカには輸出が増えるでしょう。
この記事のまとめ
以上、今回の金価格の新値更新は、パウエルFRB議長の「利下げ検討」発言でスタート。
9月5日にトランプ大統領が金地金に関税を課さない大統領令を発出したことで加速したと考えられます。
つまり、関税がどうなるかわからない状態で輸出を控えていた投資家が再開したという意味です。
結果、金の高騰の一因となっている可能性が高いと言えるでしょう。
という内容の記事でした。














