目次
植田新体制の日本銀行が始動しました。
そうした中での今回の日銀の金融政策決定会合には、どういった意味があるのでしょうか。
この記事の要約
今回の記事では、植田日銀新総裁の金融政策を一言で言えば、黒田前総裁路線の継承だと看破。
声明文の文言に多少の変更はあっても中身は変わっておらず、与党議員の中には金融緩和の解消を期待する声も多少はあるが、これに関係なく緩和を継続して2%の物価目標を維持していくということ。
ただし注目は、今後最大1年半かけて過去25年間の検証を行うという点。
25年前、1998年とはまさに日本の巨大金融機関の破綻による経済の混乱によって、経済停滞と金融不安が本格的に始まった年。
この検証の意味とは、今後、財務省の裁量行政がなくなっても日本の銀行が国際舞台で活躍できるかのチェック。
また、利上げしてもついてこれるだけの体力が銀行にあるか否かを見極めるという解釈もできる。
日本経済の長期停滞の元凶は、まさにこの銀行をはじめとする金融機関の体たらくにあり。
今回は、金などのリスク資産への影響も交えて、その点を解説していきます。
今回の日銀の金融政策決定会合の要旨
今回の日銀の金融政策決定会合の詳細を少しだけ見てみましょう。
まず物価に関しては、単に2%だった目標が、賃金と物価が相乗して上昇していくよう努めることに変更され、国民にわかりやすい目標になったと言えるでしょう。
これ自体はもっともなことであり、単に物価だけが2%上昇しても国民生活はよくはならず、これぞ国民が望んでいたことです。
その他の重要な点としては、「金融緩和の検証を今後1年から1年半かけて行う」というもの。
ここで注目すべきは、検証期間を現在からの過去25年分と謳っている点です。
ほとんどのアナリストは、検証に1年から1年半をかけることに疑問を呈していますが、この25年分がミソなのです。
以下のグラフは、1990年からの日銀の総資産の変遷になります。
日銀の総資産とは通貨の発行量になるので、その増減が緩和量になります。
90年代前半までは金融緩和は一定的でしたが、今から25年前頃から緩和の規模が大きくなっています。
ここから検証を行う、と植田総裁は言っているのです。
25年前に何があったか?
25年間の検証を最大1年半かけて行うことの意味を考えてみましょう。
25年前とは1998年です。
この時期に何があったのかといえば、日本の金融危機でした。
当時の大手都銀に数えられていた北海道拓殖銀行が破綻、国内三大大手証券の山一証券も倒産しています。
今の日本の三大銀行は三菱・みずほ・三井住友銀行です。
もともと三菱UFJ銀行は、三菱・東京・UFJの各銀行でした。
さらに言えば、UFJ銀行とは東海と三和と大和銀行でした。
みずほ銀行はもともと第一勧業・富士・日本興業銀行で、三井住友銀行はその名の通り、三井銀行と住友銀行が合併したものです。
つまり、この時期に金融再編が行われました。
要は北拓や山一の倒産によって日本経済が未曾有の混乱に陥り、その後の長い停滞が始まった年になります。
25年間の検証を行うことの意味
この経験が全く生かされなかったのが2008年のリーマンショックでした。
日本では巨大銀行の破綻に端を発して経済停滞が長引いたのですが、リーマンブラザーズを倒産させてAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)は助けたことがアメリカではよく批判されます。
これを契機に、リーマンブラザーズのような世界的巨大投資銀行を倒産させてはいけない、という世界的なコンセンサス形成が始まりました。
今回のクレディスイスのUBSによる吸収合併は、この世界的合意の継続になります。
クレディスイスを倒産させれば、リーマンや山一、北拓のような経済的大混乱が起こるかもしれず、あの時点では倒産するような財務ではなかったのにもかかわらず、吸収合併をさせられたのです。
アメリカも金融機関が大倒産時代に入れば、日本のように25年も経済不振を極める可能性があるということです。
25年とはそういう意味であり、もともと日本が金融機関救済のために始めた金融緩和になります。
日銀の金融政策と検証作業はリンクしない
ここからわかることは、世界では「大き過ぎて潰せない」というコンセンサスがある限り、富裕層は大手のみずほや三菱、JPモルガンなどの巨大金融機関に預金や資産を預けておけば大丈夫という理屈になります。
つまり植田総裁が言う金融緩和の検証とは、今後、日本の銀行が財務省などの裁量行政がなくなっても国際舞台で活躍できるかのチェックという意味です。
この意味をわかっていないアナリストやテレビのアナウンサーが、「その1年半の間に金融政策の変更はあるのか」と聞いたことに対して総裁は、「政策の変更はある」と言いました。
そもそもこの検証作業と金融政策はリンクしないものなのに、リンクして考える方がおかしいのです。
その検証作業が終わり、金融機関のチェックが終了すれば、利上げしても銀行に体力がついているかどうかを見極めるという解釈もできます。
そこで利上げ競争に耐えられないと判断されれば、今度は日本の主に地方銀行、信組、信金に再編の波が来るでしょう。
ともかく日本のこの長期停滞は、金融不安から発生しているものであるというのが植田総裁の認識であり、それが解消すれば金融正常化と捉えることもできる、ということです。
その他に物価上昇2%も維持しますが、それに加えて賃金も同様に上昇しなければ、金融緩和は継続すると言っています。
つまり根本的な点で、黒田前総裁とやっていることは変わっていないのです。
日本経済長期停滞の原因はまさにコレ!
金融機関の体たらくこそが日本経済の致命傷なのです。
少なくとも、全行横並びのあるかないかわからないような金利で、貸し出し条件も帯に長し襷に短しの状態。
これで世界を舞台に戦えるわけがありません。
また、財務省や金融庁の横並びの行政指導にも問題がありました。
専門家やアナリストは、長期停滞の原因を他から求めるから議論がおかしくなるのです。
有り体に言えば、前回の不動産バブル時の乱脈融資や情実経営は、メチャクチャとしか言えないものだったわけです。
山一の「決算の飛ばし」は流行語にもなりましたし、「損失隠し」なんて当然の話でした。
その損失隠しが20年後にオリンパスで見つかったりと、いまだに90年代のバブルとその後遺症を引きずっているのが日本と言えます。
要するに、1990年代のバブルの清算が本当に終わったのか、今後日本で巨大な金融機関が倒産することがないか、のチェックなのです。
金融正常化への険しい道程
銀行にはお金は余っているので、以前のような乱脈融資や情実・不正融資が行われることなく正しい融資が行われれば、おそらく日本経済はよくなってくるでしょう。
ただし、現実を見てください。
頭金なしで3000万円の不動産を購入できる、これがまともな融資でしょうか。
もちろん、金融機関はリスクがないから融資をするのでしょうが、「まとも」とは到底言えません。
借金とは、将来の収入の使い道を限定するものであり、そのお金を銀行に返済することが決まっていれば儲かるはずが、銀行は目に見えてよくならない、これが20年、30年たっても同じなのです。
「銀行マンは頼りになる」と経営者はよく言いますが、20、30年もこれだけ低金利で優遇されても新基軸を打ち出せない銀行が優秀と言えるでしょうか。
お金を貸してもらえるから、経営者はそう言っているだけでしょう。
つまり日本経済は、銀行がもう少しまともにならない限り光が見えないということです。
ATMが何度も止まり、最終的には金融庁がシステムを管理しなければまともに動かせない某大手銀行。
幾度も個人情報の漏洩を繰り返す某元国営銀行。
こんな状態がそう簡単に改善されるとは思えません。
しかし、競争に耐えられるだけの銀行業界と評価されれば、おそらく金融正常化に向かうことでしょう。
実際の日銀の金融緩和状況は?
以下は2022年からの日銀の総資産です。
前述のとおり、植田総裁は緩和を継続すると言っていますが、コロナショック以降、緩和を増大させていると思われがちですが、実はドル円が150円を続けた昨年10月には通貨発行量を大きく減らしていました。
その結果、円の150円台は解消し、一気に円が強くなったのは記憶にあるでしょう。
今回、実際の緩和は3月に減らしています。
植田総裁の緩和継続発言によって、円安の継続が見込まれると勝手にマーケットが観測していますが、実態は緩和を減らしているのです。
日銀金融政策発表後の大きな円安は、間違いなのがわかるでしょう。
金などのリスク資産への影響について
日銀の政策として昨年10月の緩和量の減少は、外国人入国制限緩和に呼応した面もあるでしょう。
今回は、連休明けを前倒しして出入国の制限緩和を開始しています。
それに伴い、緩和量を減らすでしょう。
これは、株価や金価格の押し下げ効果を持ちますが、反対に基軸通貨である米ドルの緩和量は、金融不安もあり増しています。
つまり、金融緩和は世界的には実行されているので、金や株、その他の貴金属、宝飾の買いは継続することになるということになります。