ここ最近話題となっている世界有数の金や白金(プラチナ)の産地、南アフリカの通貨、ランドの急落について。
原因と金、そして特に白金(プラチナ)への影響を探っていきましょう。
この記事の要約
今回の記事では、まずこの南アフリカのランドの急落の原因をロシアへの武器売却疑惑に求めるのは間違い。
原因の根本にあるのは、電力不足。
南アは金の一大産地であると同時に、世界一の白金産出国。
白金の需要が高まる中、電力不足に端を発する供給不足の進行にともない、その価格の上昇が見込まれることになる。
結果、従来の金が上昇すれば白金やパラジウムの上昇が抑えられるという反相関の関係から、将来的に三つ巴の上昇に変化していく可能性があるということ。
では、具体的に見ていきましょう。
南アのロシアへの武器売却疑惑の影響?
まず最近注目されているのは、南アが同盟国ではないロシアに武器を売却した、という疑惑です。
ただし、これがアメリカ高官から発信されたことによって、ランドが売られているという観測は正しくはありません。
あくまでも売り増しする材料になっただけに過ぎないということです。
そもそも南アというと、元はイギリスの植民地という認識が強いでしょうが、開拓したのはオランダやノルウェーなどの北欧の国々でした。
イギリスは後からやってきて、戦争の末に植民地にしたという歴史があります。
今回の武器売却の真偽は定かではありませんが、北欧系の人たちはロシアとも結び付きが強く、このような流言が飛び交う要因でもあります。
ただし南アの政府当局者は否定しており、現段階ではウワサはウワサ、ということは記しておきます。
金と白金の一大産地、南アが抱える問題
金や白金の世界有数の産地である南アには鉱山がたくさんありますが、オーストラリアの金鉱山が露天掘りで有名なのに対し、南アの採掘現場は地中奥深くの暗闇です。
そこには電気が不可欠になります。
そして昔のように手作業で原石を掘り出しているのではなく、当然、重機なども使用していることは想像に難くないでしょう。
その重機や電灯のエネルギーも電気です。
南アの電気の供給状況は、以下のとおりになります。
南アの電気生産は年々減ってきています。
南アフリカの電力生産が減少している理由として、いくつかの要因が挙げられます。
まず、南アフリカの国営電力会社エスコムの発電所は、大半がアパルトヘイト時代に建設され、老朽化して故障を繰り返しています。
さらに、発電所の設備が故意に破壊されたり、石炭や軽油、銅ケーブルが盗まれたりするなどの事例もあるようです。
また、エスコム自身の財政難も電力生産に影響を与えています。
ソース:大規模な計画停電を実施、電力不足長期化の懸念(南アフリカ共和国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ (jetro.go.jp)
ソース:情報BOX:深刻な電力危機の南アフリカ、その原因と現状 | Reuters
そういった影響にて電気の供給が止まるごとに鉱山現場では採掘作業が止まり、その他の劣悪な環境からストライキも頻発するという話は、金や白金に投資をしている人はよく聞く話でしょう。
切っても切れない電力とGDPの関係
下記のグラフは、青棒線の電気生産量に黒点線でGDP(国内総生産)を添付したものです。
データは2022年までしかありませんが、経済成長はしており、ここ10年で最高のGDPになっています。
一方で、電気の生産量は2022年以降に急減している状態です。
例えば、日本の隣国では中国の電気供給の不安定さが数年前に話題になりました。
なぜこの点が重視されるのかといえば、経済成長が鈍化するからです。
日本では外国人訪問客が夜を楽しみたいということで、夜間にお店を開けますが、それにも電気が不可欠です。
夜の電気供給が安定しないことは減収、つまり経済停滞に直結します。
南アのこの電気生産量を見れば、地中奥深くの採掘現場は昼夜の別を問わないので、停滞は必至。
ランド売りは、武器売却ではなく電力供給から来ているといえるのではないでしょうか。
電力不足が白金の生産に与える影響
まず、世界的に需要が増大している金や白金は、供給不足になっています。
その中で世界一の生産を誇る白金の生産が停滞することによって、どのようなことが起こるでしょうか。
まず、ランドが急落するので、白金のランド建てはドルにすると安くなります。
しかし、需要は増大しているので、需給関係によって白金価格は上昇します。
下記は、ドルランドレートの推移です。
値段は年間でドルが19%上昇、つまりランドは19%下落しており、この意味は白金の価格がドル建てで19%下落することを意味します。
しかし一方で、生産は採掘に必要な電気が来ないので、どのくらいなのか不明ですが減少します。
つまり、今後の白金の価格は「ドルの上昇>白金価格」になっていたので軟調な展開になっていましたが、今後は「ドルの上昇<白金価格」になります。
金と白金とパラジウムが三つ巴の上昇へ?
わかりにくいので丁寧に書きましょう。
白金の価格は金価格同様に、
【1】ドル
【2】金利
【3】GDP
+需給
によって決定しますが、この【1】~【3】の変動よりも需給の影響が大きいのはいつものことです。
白金の場合、【1】ドルがランドに置き換わり、これが19%下落しているので、今は価格が下がっているように見えます。
しかし中長期的には鉱山からの採掘が減る一方で、需要はそれ以上に大きくなるので、いずれ価格が急騰することは必然です。
となると、今は金の上昇が始まると白金やパラジウムの上昇は抑えられるという反相関の関係になっていますが、今後は三つ巴の上昇に変化していく可能性が考えられます。
なお、このランドの急落は、電気供給量が回復しない限りはまだまだ続くと思われます。