外国為替市場ではロシアの通貨、ルーブルの動きが注目されています。そこでそのルーブルの動きを説明し、その裏に隠されたロシアの目的をつまびらかにしてみましょう。
この記事の要約
今回の記事では、現在のルーブル安はロシアの国力の疲弊からではなく、逆にロシアの国力を維持させるための誘導であることを解説。
ロシアとしては、戦争遂行能力を補填するためには原油や小麦の輸出が不可欠だが、指標原油であるウラル原油は、ドル建てで制裁上限の60ドルをはるかに超えている。
そこでロシアはルーブル安にすることで、実質上のドル建て原油価格を60ドル以下に誘導している。
同様の手法で、ロシアは小麦などの穀物をはじめ、パラジウムや白金なども自由にコントロールできるということ。
そして、グローバルサウスには廉価で販売し、西側には高値で販売することは一目瞭然。
では、この資源獲得競争の時代、金は今後も高くなっていくことも含め、具体的に見ていきましょう。
過去5年間のルーブルの動き
以下のグラフは、ドルルーブルの5年間の動きです。
ドル円同様、上に行くほどルーブル安になります。
ルーブルは、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻によって大きく売られ、その後は急騰しましたが、だんだんと上値を切り下げてきています。
つまり、ルーブル安です。
では、なぜルーブルの価値は年を追うごとに安くなっているのでしょうか。
直感的に誰もが、ウクライナ侵攻によって国力が疲弊しているから思うことでしょう。
ルーブル安の背景とウラル原油
下記のグラフは青先がドルルーブル、緑先がウラル原油の価格、1年分になります。
ウラル原油とはロシア産の指標原油で、これを基準に輸出価格が決定します。
ロシアは、このウラル原油価格にプレミアムやディスカウントを設定して輸出を行うわけです。
さて、ここでロシア制裁を思い出してください。
ロシアによる石油やガス輸出は戦費の調達に当たるとして、日本を含む欧米諸国はロシア産原油を禁輸としました。
ただし、インドなどの途上国はロシア産原油なしには経済が回転しないので、そこに条件をつけています。
その条件とは、ロシア産原油は60ドルを上限とし、それ以上の価格で輸出成約した場合には船舶の保険を発行しないというものです。
その他、ロシアに対してIMF(国際通貨基金)に預託してある外貨準備金を召し上げ、国際決済システムSWIFTからの排除も決定しています。
ロシアはこの決定を受けて、事実上ドルで貿易決済を行うことができず、輸出はルーブル建てで行うことに決定しています。
実はルーブル安こそロシアの強み
ロシアとしては、戦争遂行能力を補填するためには原油や先般から問題になっている小麦などの輸出が不可欠です。
原油の場合、実際の輸出決済代金はルーブル建てで行います。
ウラル原油は制裁上限の60ドルをはるかに超えていますが、これはあくまでもドル建てでの話であり、ルーブル建てではありません。
ロシアとしてはルーブル安にして、実質上のドル建て原油価格を60ドル以下にすることが必要なのです。
そして、原油の輸出を行うタンカーには、60ドル以下で成約した証明書を保険会社に提出して、保険の適用を受けているのです。
要はこのルーブル安がロシア産の石油やガス、穀物など自由に輸出できるツールとなっているのです。
資源価格を意のままにコントロールするロシア
かつてのソ連時代から、欧米から経済制裁を受けているロシアは、その抜け道があることを重々承知しています。
例えば、少しの半導体であればスイスなどから入手し、それを国内で運用するのが昔からの常套手段でした。
今回のロシア制裁、原油輸出に関しては、ルーブルレートを利用して制裁逃れを行っているにすぎません。
先のウクライナ産穀物のカスピ海を抜ける航路の安全合意離脱は、ウクライナが小麦輸出なしでは経済が成り立たないという狙いもありますが、ウクライナからシェアを奪い、自産小麦を世界に向けて輸出するという目的があります。
このように、資源国であるロシアにいくら制裁をかけたとしても、抜け道など無数にあり、無駄なことだということです。
また、ここからわかることは、ロシア発の資源、石油やガスはもちろん、小麦などの穀物、貴金属ではパラジウムや白金(プラチナ)なども自由にコントロールできるということです。
この場合、ロシアは中国などのグローバルサウスには廉価で販売し、日本などの欧米には高値で販売することが目に見えています。
今回のウクライナ侵攻前から、中国に対して西側諸国は資源を買い負けています。
これが今後も続く、ということです。
資源の王様である金の高値は安泰
確かに石油やエネルギー、穀物の生産はアメリカがナンバー1です。
しかし、輸出市場では南米やロシアに負けているのが実態であり、特にエネルギーは環境問題を理由とする国内の反対によって、輸出競争力が上昇するとは到底思えません。
すなわち今後の世界は、グローバルサウスは安く資源を購入できる一方、西側は中国、ロシアなどから高い価格で購入しなくてはならないことが垣間見えてきます。
戦後日本に高度経済成長をもたらした要因は、安定的な資源購入にありました。
ロシアに制裁するけれど、必要なエネルギーはロシアから購入するという都合のよい主張は、足下を見られる結果にしかなりません。
こう考えると、これからは資源の時代であり、その王様である金はおそらく今後も高くなっていくことでしょう。