ドル建て金価格が2月17日に久しぶりに高値を更新しました。
しかし、これをよくよく分析すると金独自の要因ではないようです。
金価格の高騰と3つの価格構成要因と…
当コラムで一貫してお伝えしている金の価格決定要因は、
【1】ドル
【2】金利
【3】GDP(国内総生産)
です。
金価格が高値を更新した2月17日直近の1週間を見ると、
【1】ドル…ウクライナを背景に高騰
【2】金利…インフレを背景に高騰
【3】GDP…オミクロン株を背景に低下
もちろん1月は季節的な要因もありますが、ともかく3要素すべてが金にとってはネガティブな要因なのに、金は高騰してしまいました。
つまり金の価格背景要因がドル、金利、GDPではないという仮説が成り立ちます。
最近のコラムでは前述の3要素のほかに、
【4】金-ビットコインのストラドル解消の動き
【5】中国による資源の爆買い
の2要素も金価格に影響を与えている可能性を指摘してきました。
つまりこの2つの要素を分析して、これらの影響がないという判断になれば、【1】ドル、【2】金利、【3】GDPが金価格構成要因として間違いである可能性があることになります。
一方で上記2つの影響である場合はドル、金利、GDPの要因はまだ生きていることになります。
金-ビットコインのストラドルについて
まず2021年の1月ころに世界最大規模の投資信託会社ブラックロックが、ゴールド売り-ビットコイン買いのストラドルを投資信託に組み込むことを記者発表しました。
つまり去年の時点で今後ビットコイン価格が上昇することは目に見えていたので、ビットコインを買うという選択肢は当然の帰結になります。
ただしファンドは顧客からお金を集めて運用する性格上、万が一損をした場合には責任が発生します。
そのリスクを避けるためにビットコインは買うけれど、ヘッジで金を売るというものです。
下記のグラフは過去1年間のビットコイン(青)とドル建て金価格(緑)になります。

青のビットコインが上昇すると(買い)、緑の金が下落する(売り)となっており、ビットコイン買い-金売りが機能していることがわかります。
反対でも同じことで、ビットコインが下がると(手仕舞い売り)、金の価格が上昇(手仕舞い買い)が起こっているのも観察することができます。
要は去年1年間、ビットコイン買い-金売りのストラドルが機能していたのです。
直近1ヵ月のビットコインと金の値動き
下記は2月18日までの1ヵ月の金とビットコインの値動きになります。

ビットコイン(青)が上昇すれば金(緑)は下落するはずなのに、年明け1月の下旬からビットコインも金も上昇していることがわかります。
つまりビットコインの買いは持ったままで金は売りを外していた、手仕舞いの買い戻しを行っていたわけです。
これでほとんどの投資家の皆さんは得心をするでしょう。
なぜ金がネガティブな材料しかないのに上昇していたのかということです。
ブラックロックに提灯をつけて金を売っていた人たちが手仕舞いの買い、つまり追証がかかり手仕舞いせざるを得なくなった状態のピークが2月17日だったということです。
この追証整理がいつ終了するのかはわかりませんが、終われば金の価格構成要因通りにドル、金利が上昇しているので金価格は下がるはずです。
下がれば、これはビットコイン買い-ゴールド売りの手仕舞いと内部要因的には説明がつきます。
ブラックロック社の戦略

ビットコインは将来有望であるから、去年ブラックロック社は記者発表をしてビットコイン買いを行ったのです。
自身のポジションをさらすというリスクを選んだ意図は、ブラックロック社が「買いだ」と言っても、世間にはビットコインの将来性に懐疑的な人がいくらでもいるでしょう。
つまり皆がそれに賛同するかわからない、だから自身の手口をさらしてまで記者発表を行ったのです。
今回、今の状態ではおそらくブラックロックはそのポジションを解消しています。
ビットコインは利が乗っているとは言い難いですが、金売りのポジションもほぼ丸損です。
損をした状態では投資家に説明しなければいけない法律があるので、ブラックロック社は顧客顧客に言われるでしょう、「そんなポジション解消してしまえ」と。
ある意味、投資家は当然の要求を出しているに過ぎません。
しかしこれを損をしたまま投資家に返金すれば、そのお金をブラックロック社に再投資する奇特な投資家は珍しいでしょう。
ブラックロック社としては、どうしたら顧客に返金せずに済むかを考えます。
そこで新しい戦略ができるのです。
新しい戦略の見本はウクライナ情勢?
ウクライナの情勢は結局、バイデン大統領がロシアにいいようにやられていると以前解説を致しました。
アメリカが「ロシアが侵攻する」といくら世間をあおっても、ロシアはそのXデーに軍事演習のベラルーシから撤退するという、まるでプーチン大統領に遊ばれるような失態を演じました。
その中でバイデン大統領はまだロシアは侵攻する可能性があると発言しています。
ロシアが侵攻する可能性について煽りに煽りまくり、結果は撤退。
戦争をするつもりなら撤退などするわけがありません。
ロシアの負けではなく単にアメリカが間抜けだっただけの話です。
ビットコインから天然ガスと原油へ

これにヒントを得たのがブラックロック社です。
つまり、今回のロシア問題は欧州、主にドイツへのガス供給です。
ドイツはロシアにガス供給の6割を頼っています。
だからNATO(北大西洋条約機構)の中でもドイツは当初、アメリカへの協力を渋りました。
ドイツからすればロシアからのガス供給が不安定になったためにインフレが起こった、だったらロシアからの供給を安定的にするように交渉すればよいと考えるのが合理的です。
ところがロシアはウクライナでのロシア人保護を目的に出兵しました。
そこで余計にガスの供給が不安定になった結果、驚異的なインフレが進行したのです。
つまりブラックロックはガス供給が不安定になっていることに目を付けました。
投資家には「これからガス買いを行います。そのヘッジは二酸化炭素をガスよりも多く輩出する原油でヘッジします」と言うのです。
その投資は合理的に見えるので、ビットコイン投資に失敗したけれども、もう一度ブラックロックに運用を任せてみようかということになったのです。
原油と天然ガスの値動きとブラックロック
その結果は以下のグラフ、直近1年間の天然ガス(緑)と原油(青)の関係をご覧ください。

白金が産出される所では必ずパラジウムが算出されるように、石油が掘れる所には必ずガスもあるので、両者の価格の動きは似たような感じになります。
ただし2021年末までは同じような動きでしたが、直近は天然ガスは横ばいに見えますが、石油は急騰しています。
これはウクライナ情勢が緊迫すると石油が上昇すると見た投資家が買ったからであり、このウクライナ情勢の本質はガスだということに投資家が最近気づいてきたからです。
そして、2月中旬の1週間の値動きです。

青の原油が上昇すると緑の天然ガスが抑えられる、そして天然ガスが下がると原油が上昇するという動きになっています。
これはおそらく、ある投資家が原油売り-ガス買いのストラドルを組んでいることにほかなりません。
本来一緒に算出されるガスと石油の価格は、同じように推移するもので、反対方向になることは滅多にないのです。
それが常態化していることがおおよそ確認できます。
それをやっている可能性はブラックロック社ではないか?という推測です。
原油と天然ガス、そして金の今後の展開

ストラドルは、損をしないためにやるものです。
つまり損失を抑えるためには何が一番有効かといえば、価格を動かさないことです。
現実に、ビットコインは去年1年間大幅に高騰しました。
一方で金はほとんど値動きがない状態です。
これはストラドルを組んだブラックロック社のほかに、ビットコインを買った投資家が大勢いたということでしょう。
原油や天然ガスも同様で、ロシアで今後も危機は起こるでしょうが、そのたびにガスは買われるということになるであろうと推測できます。
そして原油は金のように動かなくなると予測できます。
結果としてインフレに悩むバイデン政権やヨーロッパ諸国は余計に追い詰められます。
だからバイデン大統領はOPEC(石油輸出国機構)に増産要請をし、ロシアに何かを要求した結果、ウクライナ危機が起こったと考えるのが妥当ではないでしょうか。
この記事のまとめ
今回の記事では、金価格の変動要因であるドル、金利、GDPのすべてが金価格にネガティブな傾向を示しているのに、2月17日に金価格が高値を更新した。
この背景には、金-ビットコインのストラドル解消の動きと中国による資源の買い占めがある可能性を指摘。
特に前者について、ビットコインの買いは持ったままで金は売りを外していた、手仕舞いの買い戻しを行っていた。
つまり追証がかかり手仕舞いせざるを得なくなった状態のピークが2月17日だったということ。
この追証整理が終われば、金の価格構成要因通りにドル、金利が上昇しているので金価格は下がるはず。
こういう内容の記事でした。