前後編2回にわたり解説をしている、日本の賃上げおよび賃上げ税制について。
後編に当たる今回は、日本が賃金を上昇させなければいけない理由について解説します。
モノの値段とともに人件費も下がる日本
前回は、日本で賃金上昇が起こらない背景について説明しました。
しかし、日本は恵まれていても賃金を上げるほかありません。
それは人間の本能に基づくものです。
皆さんが今よりももっと豊かになりたいと思うことは自然なことです。
しかし、日本は皆が平等に豊かになりたいという意識が強すぎる側面があります。
例えば20年前にスーパーで買うと500円以上したハサミ、今では100円です。
モノの価格は下がりに下がっています。
一方で、家の暖房が壊れてしまったので工事を頼もうという時に、人を呼ぶ費用も同時に下がってしまっています。
物価が上がっている割には上昇しません。
新幹線の東京・新大阪間の運賃も、今も昔も1万5000円くらいします。
しかし駅はどんどん素敵になり、新幹線の車両は新しくなっているのです。
現状に満足して挑戦しない企業が増えると…

今の新幹線のシステムや冷暖房などの工事サービスは格段に向上しているのに、値段は据え置き、非常に摩訶不思議なことが起こっている日本。
こういう企業や経営者は何をすると思いますか?
まず、これ以上のサービスを向上させようとしないことは確かです。
つまり、現状に満足して新しいことにチャレンジしないということになります。
そういうことをしている企業はR&D(研究開発)をするでしょうか?
ですから、今の日本では科学の基礎研究が続かない、研究開発費を減らすということが起こるのです。
日本の新幹線技術は世界に誇るべきものですが、今後は世界に誇るような技術が出てこないということは日本の衰退を示します。
つまり、研究開発に莫大なコストをかけて値上げをすると売れなくなるというジレンマがあるので、現状維持が一番儲かるというコンセンサスが生まれてしまっているのです。
“付加価値で儲ける”というやり口と”削られる”人件費

その言い訳にされたのがアメリカから導入した付加価値で儲けるという概念です。
おそらく原価が1万円以下のアイフォンを15万円で売る、テスラの50万円原価の車を1000万円で売るということを一生懸命やっています。
言葉は悪いですが、要は消費者を詐欺にかけている会社が儲かり、それが当たり前という意識が広がっているのです。
本当であれば、よいものをより安く提供するのがまともな商売でしょう。
そのために企業は何をやるのかといえば、もっと儲けるためにコストをさらに圧縮するのです。
そしてそのコストは主に人件費です。
だから給料が上がらないのです。
給料が上がらないから売上も上がらない負の循環

賃金が上昇しない原因には、皆さんの消費行動の意識問題もあります。
見せかけの格好よさにお金を使うこともさることながら、問題は、省力化によってモノの価格が下がればサービスの価格も下がるのが妥当だという勘違いです。
その反対方向で給料だけ上げてほしいと言っても無理があります。
経営者にとっては安くなければ売れないのは事実なので、給料は上げられません。
消費不況という長期停滞になるのも当然です。
お給料が上がらないから売上も上がらないという循環に入っているのです。
そしてライバルを倒すためにテスラやアップルのように原価の何十倍もの商品を世に出して、それを持つことは格好いいと勘違いさせて他の企業の売上を奪うだけの話です。
サービス業の賃上げが喫緊の課題

日本の生活水準は一見上昇しているように見えますが、実は衰退に向かっていることに気づかなければなりません。
企業がまともになるためには、サービス業の価格を上昇させないといけないのです。
例えば冷暖房が壊れて人を呼んで、1万円なんて安すぎます。
5万円くらいにしないと企業は本音では採算が合わないと考えているでしょう。
サービス業がなぜ大事かといえば、日本全体の企業数の99.7%は中小企業であり、その中で建設業・製造業等は30%程度。
エンドユーザーへのサービス提供を生業とする小売業・飲食店・宿泊業・その他サービス業が企業の70%を占めています。
このサービス業の価格が、モノの値段と一緒に下がってしまっているのです。
採算が取れないような価格で企業がサービスを提供しているので、訪問時に頼みもしていないセールスをされるというような被害にあわれている方は多いでしょう。
裏を返せば、そうしないといけないところまで企業は追い込まれているのです。
人件費の上昇を悪と捉える悪しき社会風土

これを解消するのには、成長しかありません。
特にサービス業の賃金上昇は喫緊の問題です。
製造業は価格をそれほど上げる必要はありません。
なぜなら、価格を下げても儲かるからです。
ところが人件費は、これからずっと上がるでしょう。
そして価格は維持したまま、どこかで無理が出るのは当然の話です。
今は無理に無理を重ねて、価格を上げないようにしているのです。
なぜなら、消費のパイは広がらないので価格を上げることは倒産に直結します。
日本では人件費をコストと考えるのが常道で、人件費の拡大を悪と捉える大企業の経営者が多すぎます。
その発想はおかしく、従業員がいるから会社が成立しているのです。
人件費を拡大すれば将来的に自分のところに跳ね返ってくることをわかってはいても、目先のカネに走ってしまっています。
そこが会社員の9割を占めるサービス業従事者のお給料に直結し、上がらない状態になっているのです。
この停滞を打破するためにはインフレしかない!

今政府がやるべきことは事業者に賃上げを要請することではなく、日本という国をいかに成長させるかです。
いくら増やせと言われても、成長がないんだから増やしようがないというのが経営者の本音でしょう。
この停滞を打破するためにはインフレしかありません。
「物価を安定」と言うからおかしなことになるのです。
人に幸せをもたらすのは間接的にはお金になります。
お金の価値が下がっていき、その金額が増えないのであれば人々は不満を持ちます。
それが今の日本であり、世界です。
それだったらサービスの対価として受け取る金額を増やせばいいのです。
しかし全体が成長しないから、据え置くほかありません。
今のインフレは人類に幸福をもたらすものです。
なぜならモノの価格が上昇すれば、相対的にサービス価格も上昇する。
皆さんはインフレに怯えすぎなのです。
価格を上昇させることは、皆さんの生活を豊かにするのです。
ただインフレにすると脱落者が増え、社会が不安定になるので為政者はインフレを嫌います。
しかし、収入が増えれば多くの人が嬉しくなる!
インフレ下における金価格のゆくえ

金の価格は、インフレ下では状況次第です。
モノの価格が上がっていけば金の価格も上昇するかもしれません。
これは金利や通貨の上昇よりも、GDP(国内総生産)の成長の方が高ければ金の価格は上昇します。
しかし現在のように、通貨と金利が上昇してもGDPがそれ以上に下がれば、金の価格は低迷します。
不景気下で物価だけが上昇する状態、これを経済学ではスタグフレーションと言いますが、この状態になれば金の価格は下がります。
現況では、インフレによって景気は下振れするでしょう。
しかし、そのインフレがよいように作用すれば金の価格も上昇するはずです。
この記事のまとめ
今回の記事では、給料が上がらないから売上も上がらないという悪循環を断ち切るためには、サービス業の価格アップが必須。
そのために政府がやるべきことは、事業者に賃上げを要請することではなく、日本という国を成長させること。
そして成長のために必要なのは、物価の安定ではなくインフレによる全体の成長。
インフレの負の側面ばかりを見るのではなく、正の部分も見なければならない!
こういう内容の記事でした。
なお、ロシアがウクライナに侵攻しても、アメリカ政府は財政を脅かすような財政出動はしません。
よって金の価格は上昇しないと見ています。