進むも地獄、とどまるのも地獄の世界経済と「インフレに強い金」

新型コロナにようやくワクチン接種の効果が出て、行動制限の緩和が期待されています。

菅首相の「明るい兆しが見えてきた」という言葉通り、今や実際に希望が見えてきました。

ただし、あくまでもコロナの話であり、経済に対しては悲観的にならざるを得ません。

新型コロナ金融緩和の副反応

良薬口に苦しのように、金融政策でもよい金融政策ほど副反応があるもの

2020年2月に始まったコロナショックのあと、各国の中央銀行は金融緩和政策を行いました。

具体的には、民間の銀行の国債を現金化して融資マネーに充てるという政策です。

ただしこの金融緩和には、コロナワクチンを打った直後に倦怠感や発熱などの副反応があるのと同じように副反応があります。

その副反応とは、金融緩和をヘリコプターマネーと言うように、お金が大量に供給されるのでその価値が下がることにあります。

反対にお金で買えるモノの価値、すなわち物価が上昇するのです。

具体的な資産で言えば、株式や不動産、ビットコイン(BTC)などの値段が上昇します。

もちろん金や白金、パラジウムなどの貴金属、原油などのエネルギーも同様です。

アメリカの物価上昇を見る

具体的な物価上昇は、以下のアメリカの消費者物価指数のグラフが示す通りです。

参照元:TRADING ECONOMICS

これはインデックスと言われるもので、1980年の物価を100とした場合、2021年8月の右端は273.012になっていることを表しています。

これを過去から見てみましょう。

参照元:TRADING ECONOMICS

1950年代からアメリカの物価は上昇しています。

リーマンショックのあった2008年に線が大きく上に出ていますが、これは当時としては過去最大の金融緩和をやった帰結です。

その後、通常のアップトレンドに収束しました。

今回は、そのリーマンショックを軽く超える規模の金融緩和をやっていますので、まだまだアメリカの物価は上昇するでしょう。

実際に以下の年率での物価上昇率を見ると、すでにリーマンショック直後を軽く超えています。

参照元:TRADING ECONOMICS

また、2000年代に今より物価上昇がひどいかったのはリーマンショック前で、それ以前の景気がかなり過大な拡大であったということが見て取れます。

物価上昇を受けて売上はどうなった?

よいものをより安く買いたいのは、金持ち貧乏人の別なく人類の切なる願いと言えるでしょう。

しかし、今の状態は物価が上昇するのですから、この願望はあまり叶えられません。

高いけれど、相対的に世間一般で売っている価格よりは安くは買えることは可能でしょうが。

つまり人は安いものだと買う、そして売上は上がるということです。

では、物価が上昇して売上はどうなっているのか、下記のアメリカの消費者物価指数前年比を見てみましょう。

参照元:TRADING ECONOMICS

これを見ると、売上が上がっていると見ることができます。

ところが、上記の小売売上から自動車を除くと下記のグラフのような結果になるのです。

参照元:TRADING ECONOMICS

自動車は、家計の中で自宅以外で一番大きくなる傾向があります。

さらに昨今の半導体の不足によって価格が高騰しており、新車の販売台数に至っては例年の半分以下、結果として中古車もアメリカ国内で非常に高騰しています。

つまり価格が高騰している自動車を除くと、アメリカ国内では売上は上がっていないのです。

ご存知のようにアメリカは自動車がなければ生活できない社会であり、マストな物資になります。

小売売上全部を見ると上がっているように見えますが、そのほとんどは自動車が占めており、現実的に売上は上がっていないのです。

アメリカの雇用は本当に回復してきている?

バイデン大統領は「雇用が確実に回復している」と盛んに喧伝をしているが…

企業が雇用を拡大させるのにマストなことは、売上が上がっていること、もっと言えば利益が上がっていなければ、雇用など増やすわけがありません。

なぜなら企業にとっての人件費とは、経費の中で一番かかるものというのが一般的であり、このコスト削減は企業経営にとって非常に重要なものだからです。

売上が上がっていなくて、利益が上がっていないのに雇用が増えるわけがありません。

バイデン大統領の言う雇用の拡大は、あまりにもパンデミックによって雇用が減ったことに対しての反動であり、ここからさらに雇用が拡大するのには、企業の利益増大が必要になってきます。

しかし売上は当然、価格が上昇すれば上がりますが、実際は売れていません。

この状態で雇用は増えるわけがないのです。

さらに価格が上昇しているので、人々はできるだけ安くてよいものを買いたいと願っているのですから、買い控えをします。

つまり、価格が上昇して売上額は上がるというよい物価上昇ではなく、価格が上昇すればするほど売り上げが減っていくという悪いインフレが今支配しているのです。

この状態で、景気がよくなるなんてありえません。

11月までの景気の展望

2021年9月のニューヨーク市の様子

結局、最終的には企業の売上が上昇するためにはどうしたらいいのか、という一点に尽きます。

金融緩和の副反応とは物価の上昇なのですから、その物価上昇を抑えるためには金融緩和を縮小すればいいのです。

日本やヨーロッパは物価が上昇しすぎているので、この金融緩和の拡大の幅を縮小していますが、アメリカはまだやっていない状態です。

具体的には9月22日と23日のFOMC(連邦公開市場委員会)で金融緩和の縮小、すなわちテーパリングを検討していますが、コンセンサスではこのテーパリングは9月に計画を発表し、11月から実行ということになります。

もし、9月にこの金融緩和の縮小をやらなければ、ほぼ次回の11月のFOMCまで金融緩和の縮小は持ち越しになります。

すなわち、11月までこの物価上昇は続くということです。

つまり11月まで企業の売上は上がらず、利益が減るという循環になり、結果として景気が悪くなるのです。

どうなるアメリカのテーパリング?

FRBの判断はいかに!?

FRB(連邦準備制度理事会)の理事たち、そしてパウエル議長自身が緩和に懐疑的な発言を繰り返し、できるだけテーパリングを先延ばししたい意向があると考えられます。

FRBの議決は基本的には多数決であり、ほかの委員、理事たちがテーパリングを主張して意見が拮抗したとしても、たいていの場合は議長の意見が通ることが多いものです。

9月には日欧、オセアニア、カナダなどがすでに金融緩和の縮小を実施しており、そこでアメリカだけが続けるということはありえませんが、議長は8月のジャクソンホールでテーパリングを表明しているとはいえ、情勢はまだ流動的です。

パウエル議長がテーパリングに懐疑的だと思う根拠は、昨今の金融情勢というのはフォワードガイダンスが基本であり、事前にテーパリングを行うのであればその説明をしてからになります。

ですから市場では、9月にテーパリングのフォワードガイダンスを行い、11月から実施というのがコンセンサスになっているのです。

世界経済は今や進むも地獄、止まるも地獄

テーパリングの本来の意味は「先細り」。写真は、金属部品の穴のテーパー加工に使用するテーパー付きハンドリーマー

しかし、この物価上昇の幅は11月からでは遅すぎることを示しており、もっと言えば、たとえ9月に開始されても物価の上昇を抑える役目としては非常に遅いと感じられます。

なぜならインフレというのは一度始まると止める手立てがなく、その前に芽を摘むのが経済学の常道だからです。

すでにインフレは始まっていると見るのが妥当でしょう。

結果的にテーパリングでインフレを抑え込むことに成功できても、その後には過剰流動性によってモノを作りすぎてデフレになるということです。

つまり金融緩和を縮小しても、そのままにしても、進むも地獄、止まるも地獄のような状態になっており、世界的な景気減速は不可避というのが現状なのです。

金相場への影響

金はすべてのインフレに強いわけではない!?

今回は「インフレに強い金」という格言を背景に説明してみましょう。

よいインフレとは、物価が上昇すると、早く買わなければいけないという消費行動を促進され、結果として売上も上がることを言います。

つまり金の価格構成要因で見ると、

【1】ドルに関しては、通貨安
【2】金利に関しては、物価が上昇するので上昇
【3】GDPに関しては、物価が上昇するので上昇

それぞれ見ていくと、【1】は金にとって強気の要因、【2】はネガティブ、【3】は上昇ですので金にとってはポジティブになり、総合的に見て、よいインフレが起こる場合には金の価格は上昇になります。

一方で、物価が上昇して消費が減り、企業利益が減る悪いインフレが起こる場合はどうなるのか?

【1】ドルに関しては、通貨安
【2】金利に関しては、物価が上昇するので金利高
【3】GDPに関しては、売上が上がらないので減少

よいインフレとの違いは【3】のGDPで、よいインフレの場合は上昇しますが、悪いインフレの場合には下がります。

よって【1】ポジティブ、【2】ネガティブ、【3】ネガティブになり、総合すると悪いインフレの場合は金は下がるのです。

世間で言う「インフレに強い金」とは、金が上昇するという意味であり、よいインフレによって経済活動が拡大することがインフレに強い金という意味になります。

悪いインフレでの金は、価格が下がる傾向にあり、結果として『インフレに強い金』という慣用句は通用しないことになります。

この記事のまとめ

今回の記事では、現況の世界経済は悪い物価上昇からの売上減、ひいては利益減、そして雇用減、結果的に景気減速は不可避となっている。

テーパリングでこのインフレを抑え込めても、その後に待っているのは過剰流動性によってモノを作りすぎたことによるデフレ。

世間では「インフレに強い金」と言うが、この悪いインフレ下だとドル安、金利高、GDP減であり、総合的に金にネガティブな要因が上回ってしまう。

今後の世界経済はコロナワクチンによって回復する可能性はあるが、経済がダメージが受ける可能性はなおさら高い!

こういう内容の記事でした。