台湾海峡を巡る米中の攻防が金相場に与える影響

4月に行われた日米首脳会談で、台湾海峡に関するコメントが約40年ぶりに明文化されました。

今回はその意義について解説するとともに、米中の対立が金相場に与える影響について考えます。

米中攻防の経緯

2020年台北、総統選挙で現職の蔡英文総統を支持する市民

台湾をめぐる米中の攻防は、バイデン政権になってからスタートしたものではなく、トランプ政権末期からです。

トランプ政権では、Tiktokアプリのダウンロード禁止を発令しましたが、バイデン政権では広範なアプリを安全保障上の理由から禁止することを検討しています。

この動きは共和党と民主党の別なく、台頭する中国の権威主義に対する危機感が米国内で盛り上がっているからです。

香港に関しては、タックスヘブンに対するアメリカの利益の阻害を民主化運動弾圧に置き換えて抗議していることが濃厚ですし、ウイグルや新彊、モンゴルへの弾圧はアメリカと相容れない人権問題として抗議をしています。

アメリカの人権外交は、レーガン政権で東西冷戦が終了して世界の盟主となったアメリカが、どう世界を指導していくかを考えた場合、人権と民主主義の啓蒙が重要であると定めたカーター大統領から始まりました。

その後、9.11テロが勃発し、結果としてムスリム対世界という構造になりましたが、最近では対中国になっています。

では、なぜアメリカは中国に対して異常な危機感を持っているのでしょうか?

世界の警察をやめたアメリカ

2020年になってもボスニアの首都サラエボに残る、ユーゴスラビア紛争時の銃弾の痕跡

ニクソン政権でベトナム戦争での敗北が決定すると、その影響は金融市場に及び、ニクソンショックという結果を招きました。

このニクソンショック、すなわち金とドルの兌換停止の裏の理由は、アメリカの財政難によって1ドル360円という固定レートを維持することができないので、変動為替相場制度になりました。

その後、クリントン政権時代になると、アメリカの積極的な海外紛争への介入がなくなります。

クリントン大統領はユーゴスラビア紛争への介入をためらい、ルワンダなどのアフリカの内戦では、無視を決め込むほど世界の紛争に無関心を装ったのです。

もちろん、パナマ運河のアメリカ支配を止めた英断もありますが、冷戦前と後では積極的な軍事介入が行われなくなったのも一つの事実になります。

そして、オバマ政権下ではロシアがウクライナのクリミア半島に介入し、軍事占領を正当化しました。

この問題は、力による国境線の変更は認めないという現状の国際法に反しており、こういったことが最近特に多くなっているのが現実です。

ロシアのクリミア侵攻から危機が高まった

2014年3月、ウクライナの首都キエフでロシアのクリミア占領に抗議する市民

ロシアのウクライナへの介入も、リーマンショックを終えたばかりのオバマ政権に余裕がなく、ヨーロッパ諸国に任せっきりでした。

その一方で、ブッシュ大統領が始めたアフガニスタン戦争に、オバマ大統領は増援を決定しています。

その際に副大統領であったバイデン現大統領も、このアフガン増援に関して重要な任務を果たしました。

今のバイデン政権がオバマ政権時のやり方を踏襲するケースが多いのは、当時のブレーンがほとんど残っているからです。

ただ、うまくいかなかったことさえも同じようにやっているようでは、うまくいくわけがありません。

駄目な演奏家がズーッと同じ曲を演奏しているようなものです。

例えば、アフガンに対する計画書を専門家に作成させましたが、これが間違いだらけで増派はうまくいきませんでした。

北朝鮮に対する計画書は5月、中国に対する計画書は6月中に作成される予定ですが、アフガンのケースと同様にデタラメな内容だった場合、どうするのでしょうか。

横暴な中国に周辺国は…

2020年ラダック、中印国境付近のインド軍の基地

さまざまな問題を抱えている米中情勢ですが、ロシアのクリミア半島占拠を放置したことが、中国の無作法な行動を招いたことは事実です。

現実に紛争に介入しない、世界の警察をやめた結果、何が起こりましたか。

日本では尖閣諸島に頻繁に中国船籍の船や軍艦が出入りするようになり、南沙諸島では島を建設されて中国領だと主張される始末。

こういうアジアの無秩序は、オバマ政権時代から始まったのです。

インドでは、圧倒的な軍事力を誇る中国軍が領内に侵入し、インド兵をクレバスに放り込むという悲惨な虐殺も起こりました。

このような行為を見れば、中国の周辺国が警戒をするのは当然です。

日本としても沖縄の南にある台湾の国境線が中国によって変更された場合、大きな安全保障の問題になりますし、南沙諸島周辺のベトナムやフィリピンなどは、大きな脅威を感じていることでしょう。

今やアジアは台湾を中心に動いている

台湾の指導者である蔡英文総統

これらはすべて、リーマンショックやアフガン増兵の失敗から弱腰の姿勢だったオバマ政権に起因します。

今のバイデン政権は、オバマ元大統領の無能ぶりを訂正する動きにきているだけなのです。

台湾を国家として扱うと中国が猛反発するから、「台湾海峡」と声明文や国際文書では書きます。

しかし、中国の懸案事項の一つですので、いつ武力によって中国に奪われるかわからない状態です。

想像以上に、台湾に関する主権問題が緊迫しているのが今の国際情勢なのです。

今やアジアは台湾を中心に動いていると言っても過言ではありません。

アジアの金融市場の実情

シンガポールの金融・ビジネス街の夜景

アジアの金融市場を考えた場合、自由主義を標榜している国はシンガポールを筆頭にたくさんありますが、金融市場が自由化されているのは実は日本だけです。

中国には人民元相場レートがありますが、管理フロート制といってその実は中国共産党の誘導したいレートに操作可能な為替市場です。

シンガポールや香港なども自国の為替市場がありますが、ドルペッグ制度といい、ドルに連動している相場になり、操作しようと思えば操作可能です。

ほかにも韓国も自由市場を標ぼうしていますが、最近まで連日のように韓国中銀が介入しており、為替操作国と認定されてもおかしくないような状況になります。

韓国経済の規模がそれほど大きくないので、見逃されているだけにすぎません。

つまり、アジアでマーケットの自主性を重んじているのは日本だけであり、台湾で有事があれば一斉に円が買われることになるのです。

日本円の為替レートの信頼性

円に対する信頼は厚い

日銀によるドル円相場への介入がなくなったのは、自由主義市場を標榜しているのに頻繁に日銀が市場に介入をすれば、信頼性が失われるからです。

その代わりに、国債買取オペによって実質的にドル円市場に介入しています。

介入している証拠は、ここ数年、円高と円安のどちらに行き過ぎても最終的にはドル円は110円近辺に戻ることを見ても明らかでしょう。

実際に、日銀や財務省は日本にとって110円くらいのドル円レートが一番良いと言明しています。

ですから、実質は介入をしているのですが、名目上は介入をしていません。

どういう理由があろうとも、ドル円レートは市場の自主性が重んじられ、何か有事があっても市場の原理通りに動くから、アジア各国は日本の為替レートを信用しているのです。

台湾は日本が支援するので中国は手を出すな

台湾と日本はともに手を取り合い中国に対抗する!?

新型コロナウイルスが蔓延する台湾に対して、日本はワクチンの支援供給を申し出ました。

菅総理は、東日本大震災の際にいの一番に支援金を出してくれたお礼だと会見で表明しましたが、現実的な意味では、台湾は日本が支援するので中国は手を出すなというメッセージです。

そのほか、世界で供給不足の続く半導体は、台湾がその主要な供給国になるのですが、この輸出が雨不足や水不足で滞ることがないように、西側諸国は台湾を支援したいと思うのが普通です。

半導体に関しては日本での製造をという声もありますが、それを政治家が封殺するのは1980年代のさまざまなトラブルが背景にあります。

本当は日本で作ればいいのですが、政治的問題にまで発展することでしょう。

一方で中国は、台湾は中国の主権が確立している中国固有の領土であり、習近平は中国に併合する野望があると一般的に言われています。

ここで欧米や日本が弱腰を見せて、ロシアのクリミアのようなことがあっては困ると、今中国との対立を先鋭化させているのです。

日本もアメリカの同盟国である以上、こうした要求に応えなければなりませんし、今の日本人の中では中国傘下入りすることに否定的な人が過半を占めるでしょう。

台湾有事と円

2021年5月、新型コロナウイルスの蔓延で閉鎖された台湾の高雄の子供の遊び場

台湾は日本やアメリカ、欧州、インド、オセアニア、韓国にとって要衝であり、これをクリミア併合時のような無関心によって中国側に奪われてはならないという野心的概念があるのです。

そのため台湾でコロナウイルスが蔓延すると、西側諸国は一斉に支援の手を指し伸べるという構図になっています。

その意味は、中国は我々の友好国に手を出すなというメッセージになるのです。

中国からすれば、台湾が国家ではなく単なる自分の領土だという認識の違いも、考える上では重要です。

問題は、この台湾でコロナウイルスが大流行した時に日本の金融市場は円高になり、日経平均は売られたという事実です。

つまり台湾だけではなく、アジアでこういったコロナや安全保障の問題が生じた場合には、有事のドル買いのように円が買われ、日経平均も売られるという構造になっているということです。

日本の金融市場の重要性

日本の金融の中心地である東京の兜町周辺の風景

アジアの自由主義の防波堤は日本であり、その日本の金融市場の重要性をFXや金の投資家はほとんど理解していません。

例えば、金であればアジア有事の際は円高になるので、円建て金価格は下がります。

有事といっても、その際に国家の借金が増えるわけではないので、円高、金利高のダブルで下がる金の下落ほどはひどくないということです。

例えば戦争のように、天文学的な財政資金を使う事態があれば金利も上昇するでしょうが、コロナで財政的に余裕がない各国は、巨額の財政投資をすることはないでしょう。

ゆえに金は円高による下げのみで大した下げにはならないでしょうが、アジアで何かあった場合には金は下がりやすくなるということです。

こういうことを理解していると、金市場予測で大いに参考になることでしょう。

この記事のまとめ

今回の記事では、台湾を巡る米中の対立が激化して一朝事あれば、有事のドル買いのように円が買われることになる。

なぜなら、日本はアジアの防波堤であり、実質的にアジア唯一の自由化された金融市場を有する国として信頼されているから。

そして、円高になれば円建て金価格が下落することを理解していない投資家があまりにも多すぎる。

かいつまんで言えば、アジアで有事があった際には金価格は下がりやすくなるということ。

※但し台湾有事は、中国が『自分の足をピストルで打つが如し』となるので先ず有り得ない

こういう内容の記事でした。