アメリカでは下院議長である民主党の重鎮、ナンシー・ペロシが8月2日に台湾に訪問する可能性からマーケットが荒れています。今回はその解説です。
ペロシ米下院議長の台湾訪問
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-08-01/RFXTJIDWX2PS01?srnd=cojp-v2
引用元:ブルームバーグ
アメリカ民主党は、クリントン政権時代から中国と蜜月関係を築いてきました。
ただしペロシ下院議長は、民主党の数ある会派の中でも親台湾派の頭目として有名です。
共和党はニクソン大統領が中国との外交を開始しましたが、もちろん台湾派の議員が多くを占めています。
日本でもアメリカでも、政界では台湾のロビー活動が盛ん、関係者が多く入り込んでいる事情もあり、これが台湾の外交パワーの源泉になっています。
一方の中国は国が停滞していた時期が長く、日米へのロビー活動が遅れましたが、最近では活発になっています。
つまり中台双方が日米の政界ロビー活動に邁進している状態です。
ペロシ下院議長の年齢を考えると、次期中間選挙では共和党の勝利が確実視されていることから、下院議長としての任期は今年までの可能性が高く、実績作りのための台湾訪問となったようです。
ペロシ議長の訪台に関して中国派は反対していますが、民主党、共和党を問わず多くの賛同を得ており、米国議会にしては珍しい半ば超党派の応援となっています。
台湾問題の歴史的経緯と欧米諸国の姿勢

建国以来の中国の主張は、台湾は中国固有の領土であり、そこに国民党の蒋介石が逃げ込んだことによって成立したというものです。
アメリカもこの一つの中国政策を承認し、国連代表を台湾から中国に変更することを承認しました。
また戦後一貫して外国が台湾の独立承認活動を承認しようとすると、中国は徹底的に対立を招くことになると警告を与えています。
例えば、ベルリンの壁崩壊による東西ドイツの統合時、経済が疲弊したドイツが外貨獲得のために台湾に武器売却を行おうとしたのですが、中国に抗議され取りやめました。
中国は見返りに多額の援助をドイツ政府に行い、ドイツはそれ以降、台湾への武器売却は行っていません。
これはフランスも同様です。
中国はイギリスが1997年の返還後も香港への関与を高めると予測し、入念にイギリス排除を行い、同時に台湾への関与も行わないように配慮してきています。
イギリスは現在でも台湾への武器売却を行いますが、中国は適度な距離を保つようにしています。
アメリカは、米中で外交交渉が再開されるときに懸案となったのが、台湾への武器売却問題でした。
鄧小平がアメリカが武器売却をいずれやめると約束したと勘違いをした結果、国交正常化が行われました。
以来、台湾への武器売却が行われるたびに、米中間の緊張が高まっています。
日米の閣僚訪台とこれまでの中国の姿勢

日本は1990年代に当時の羽田孜外相が台湾を訪問し、大きな問題となりました。
それ以降、現役閣僚は台湾を訪問しないという慣例ができ、閣僚や高官の訪台はなくなっています。
アメリカでも1997年にギングリッチ下院議長が訪台を果たしていますが、その際も米中の緊張が高まり、それ以降は閣僚や高官が台湾を訪問することはありません。
これらに対して中国は、不愉快である旨を明確に主張しましたが、それ以上の行動には至らなかったのが過去の経緯になります。
しかし、現役の閣僚や高官が台湾を訪問することは、米中や日中の関係性に大きなしこりを残し、結果として経済成長の鈍化につながります。
今回のペロシ下院議長の訪台は、米国内で超党派の賛成があるとはいえ、バイデン大統領を筆頭に不快感を示しています。
中国はどう出るのか?

アメリカのインテリジェンスコミュニティーからは、中国がペロシ議長が乗った飛行機を撃墜したり威嚇したりするのではないか、との情報があります。
しかし、現時点ではその可能性は低いでしょう。
過去の例では、猛烈な抗議を行っても実力行使はなかったからです。
また中国の外交は、基本的には様子見になります。
これは鄧小平が示した外交方針、「対立するくらいであれば、その間に経済力を強化していきたい」であり、強大な権力を持った習近平政権でも継承されています。
現実に鄧小平治世の間、大きな国際トラブルもなく、特に訪日の際に鄧小平が「中国の発展に力を貸してくれ」と頭を下げたのは有名な話です。
その理由は新彊やウイグル、香港など国内問題が数多くあり、内乱が起これば鎮静化が非常に難しいことにあります。
中国の軍事力増強の話題が多く上がりますが、結局それは外に向けたものではなく、国内に向けた増強の可能性が大きいです。
ただし重要閣僚の訪台後、台湾海峡危機が起こっていることも確かです。
台湾海峡付近で中国が軍事練習を行ったり、台湾に向けてロケットを発射することも多くなるので要警戒になります。
ペロシ訪台の金相場への影響と台湾有事の可能性

8月2日から3日にかけて台湾海峡危機が起こる可能性は低いですが、その後、中国が台湾周辺で軍事演習を再開する可能性はあります。
その際に「有事の金」として金の価格が上昇するかもしれませんが、その可能性は低いでしょう。
まず、台湾海峡危機が起これば軍事費の増大が懸念されます。
その場合、再び赤字国債の発行という金融緩和を行わなければならず、結果として一時的に鎮静化しているインフレの問題が再浮上する可能性を否定できません。
そのリスクを冒してまで海峡危機を中国、アメリカともに行うかの問題で、その可能性は低いと見るのが合理的でしょう。
この記事のまとめ
今回の記事では、台灣訪問を強行したアメリカ民主党の新台湾派の頭目、ペロシ下院議長の行動が中国をどう刺激するかについて解説した。
すなわち、外国との軍事的対立よりも経済力の強化に専念するという鄧小平以来の中国の基本方針は変わらない。
ただし、主要閣僚の訪台後に台湾海峡危機が起こっていることも確かなので、警戒をする必要はある。
金価格については、危機の度合いに応じて上がる可能性もなくはないが、その可能性は低い。
米中とも、インフレの危険を犯してまで軍事費を増大させてしまっては元も子もないから。
こういう内容の記事でした。