目次
エネルギーのインフレに加えて、穀物も獲得競争状態に入りました。こうした中、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)がインフレ警戒からサプライズの0.75%の政策金利引き上げです。今回は、このインフレの背景について説明します。
今のインフレの原因

今のインフレの根拠は、まず金融緩和のやりすぎ。
そして昨年はコロナ禍によるロックダウン、経済封鎖によって物価がほとんど上昇せず、その後の経済成長に伴い対前年比で価格が高騰したことによります。
またそのステイホーム期間中、環境問題が再び話題になりました。
経済の低迷が続く中、主に独仏が環境に関する政策を変更しています。
具体例を挙げれば、EU各国ではガソリンカーの販売中止の前倒しを行いました。
結果として炭素を供給する火力や自動車、飛行機などの排ガス問題がクローズアップされています。
そしてとどめは、ロシアによるウクライナ侵攻です。
石油や天然ガスの安定供給問題が、再生可能エネルギーの導入促進をさらに強化しました。
今、政治の世界では、化石燃料から環境に優しいエネルギーへの転換がコンセンサスとなっています。
まずはこの、環境技術についての説明です。
産業革命と森林破壊

イギリスで産業革命が起こった18世紀中葉にさかのぼりましょう。
ワットが蒸気機関を発明し、商品が大量供給できるようになったのが産業革命です。
その動力源である蒸気を発生させるために、水に火力を加えなければいけません。
その火力として石炭から沸かすのは、革命前夜にはまだ開発されておらず、結果として森林破壊につながりました。
現在のヨーロッパにはほとんど森林がありません。
これは、産業を育てるために無計画な森林の伐採を行った結果です。
産業革命によって、ヨーロッパの森林の30%が消失したと言われています。
薪と松茸と、石炭と植民地と

参考までに高級食材の松茸は、森林伐採によって生育に適した土壌になったことから大量供給できるようになりました。
近年、日本で松茸の生産量が減ったのは、薪からではなく石炭や石油の火力によって日常生活をまかなうことができるようになったためです。
すなわち森林破壊が進行しなくなり、松茸の生育環境に適さなくなったのです。
日本ではかつて、北朝鮮産の松茸が流通しました。
これは、北朝鮮の一般家庭の火力源がいまだに薪だからでしょう。
やがて産業革命の動力源は、石炭から抽出されるコークスに代わりました。
ヨーロッパでは、独仏国境沿いやイギリスに優良な炭田があり、ロシア軍が侵攻を集中させるウクライナ東部には、ヨーロッパ最大の炭田があります。
こうした豊富な炭田を背景に、ヨーロッパ列強は世界各地に植民地を広げ、経済地域に発展しました。
欧米における産油事情

さらに石油を動力源とした世界に傾斜し、アメリカでは第二次世界大戦前まで多くの原油が生産されていました。
今の原油の指標原油であるWTIは、テキサスを中心に採掘されていた原油を指します。
アメリカが第二次大戦の勝者になり得たのは、石油を使って工業化に成功したという側面があります。
ところが旺盛な需要で国内の石油を掘りつくし、1948年を最後にアメリカから石油が輸出されなくなりました。
輸出が再開されるのはシェール革命を経た2018年からになります。
一方で現在、ヨーロッパでは北海油田、ノルウェーの油田、オランダのガス田などがありますが、石炭から石油に移行した当初は未発見でした。
しかし北海油田はすでに大幅に生産を縮小しており、オランダのガス田も地盤沈下などの環境問題で今年閉鎖の予定になります。
ヨーロッパが安価なエネルギーを得られないことが、ウクライナ侵攻当初の消極的な姿勢に表れています。
アメリカもWTIを掘りつくした結果、中東に目を向け、サウジアラビアの安全保証を請け負うことで、安価なアメリカ向け原油輸出を獲得しました。
かたやヨーロッパ諸国は中東の植民地を次々と失い、低迷に拍車をかけることになります。
薪も石炭も石油ももとはタダ同然だった事実

初期の産業革命は、膨大な森林破壊をもたらしていました。
石炭は、産業革命以前は豊富にあったもので、枯れることはありません。
対して石油や天然ガスは、採掘当初は大量に出ますが、経年すると枯れていくものです。
石油がこれほど成長したのは、便利であり廉価でもあったからです。
石炭からの移行期当初、1バレル1ドル以下だった原油が現在では100ドルを超えていて、廉価と言えるでしょうか。
産業革命以前は石油や石炭、そして薪はタダ同然だったから各国はそれを手に入れ、経済成長という果実を手に入れたのです。
しかし薪も石炭も石油も、今は高過ぎる水準にあります。
代表的な環境革命とは?

環境革命の典型的な技術として挙げられるのは再生可能エネルギー、そして電気自動車になります。
再生可能エネルギーとは、風力や太陽光のことを指します。
電気自動車にとって、ガソリンカーのエンジンに相当する燃料電池がキモの技術です。
これらの技術は薪や石炭、石油と同様、多くの技術を必要とします。
風車を回すことによって電力を得る風力発電は、より効率よく発電させるために、リニアモータカー同様に磁石が必要となります。
その磁石が採れる地域は世界で限定されています。
そのほか、燃料電池のキモとなる資源にはさまざまなレアアースが使われているのです。
新資源と新技術の両方を押さえる中国

これらの環境革命に必要な資源は、1ドル以下だった石油が現在は100ドル超となっているように、今後の高騰が予測されます。
しかもレアアースというくらいですから本当にレア、おそらく価格が1000倍、いや1万倍以上の価格になっていくことでしょう。
そして、その生産地域を押さえているのは中国になります。
また、その精錬技術も中国が押さえているのです。
具体的には、それらの鉱物を収集するためには放射能などの人体に悪影響を放出するものが多く、それを先進国などでやるとなると、人権問題になるでしょう。
ところが香港やウイグル問題に見られるように、人権に無頓着な中国ではそれが問題視される可能性が低いのです。
ゆえに先進国の支配地域で産出されるレアアースでも、中国に依頼して精錬してもらわなければいけない状態になっています。
この環境資源で、量もコストも加工技術もトップクラスの中国が世界のトップを走るのは、誰の目にも明らかと言えるでしょう。
例えば太陽光パネル覇権

例えば太陽光発電も、20世紀までは日本が最先端の技術を持っていました。
しかし中国政府の政策援助によって、今や中国が生産シェアの9割を握っています。
この9割という数字も、中国国内のコスト増大によって海外に逃げ出した企業が外国で製造しているだけなので、実質、太陽光パネルの製造は中国の供給に頼っているのが現状です。
ヨーロッパやアメリカは太陽光パネルの国内製造業者を保護しましたが、それを行ったときにはすでに遅く、中国メーカーが太陽光パネル製造を握っていました。
つまり次世代技術である太陽光は、中国次第になってしまっているのです。
石油の恩恵と環境派たちの矛盾

そのほか、環境擁護派の人たちは石油の使用をやめるように世界に求めています。
この人たちは、現実を知りません。
今回の新型コロナ蔓延で医師、医療関係者の活躍が光りましたが、彼らの安全を守っているのは石油化学製品です。
具体的にはプラスチック製品を指し、医療現場のほとんどの器具に使用されています。
代表的なN95マスクも石油化学製品ですし、私たちの病気の進行を治療する薬もほとんどが石油化学製品です。
環境派の人たちは「飛び恥」と称して飛行機の禁止も訴えていますが、代替の移動技術が確立されているわけではありません。
「地球環境を守ろう」というスローガンは誰でも賛意を覚えるものですが、言っていることが無茶苦茶なわけです。
世の中から石油をなくすことはできません。
新資源覇権を背景に中国の成長は続く

その石油、年々生産が増えていますが、その増産分の全てを中国が消費してしまっているのが現実になります。
いくらOPEC(石油輸出国機構)が増産しても、焼石に水というのが現状です。
過去には革命などが起こると、その資源に対する需要が莫大なものとなり、価格が100倍を超えるような事態になってしまったこともありました。
今後のレアアースなどは、100倍では済まずに1万倍以上の価格になってくるでしょう。
そして石油の使用を炭素排除のためにやめなければいけませんが、現実的な話ではなく、むしろ中国の今後の成長を含めてもっと増えていくというのが現状の見通しです。
そして先進国では、中国の成長頼みで経済力を維持しているので、その成長を後押しするほかありません。
ゆえに中国に石油使用を止めさせるのも非現実で、石油の使用を控えるのは自らの首を自分の手で締めるようなものなのです。
自縄自縛のアメリカには中国は止められない!

アメリカに至ってはこれだけ資源の高騰が続くのに、環境派の台頭によって石油やガスの産出をやめさせようという動きです。
メタンなど、石油やガスによって排出される有害物質もありますが、その取り込み技術や貯蔵技術はすでに確立されています。
にもかかわらず反対運動を起こし、結果的に米国内で新規の油田開発を阻止している状態です。
このような状況下で中国の成長は、世界の成長のために止められるものではありません。
しかも、その中国が資源と技術の過半を握っているのです。
欧米や日本はその権益の拡大や技術開発を妨害し、最終的には安い資源にアクセスする権利を得たいと想像がつくでしょう。
あまりにも安い金や原油、レアアースがあれば争奪戦となっており、また価格が高騰した資源でも先進国と中国との間で獲得競争になっています。
それに負けているのが西側諸国であり、勝っているのは中国なのです。
この記事のまとめ
今回の記事では、インフレの背景にある資源争奪戦について解説。
そして今後、環境技術革命が起こるのが世界のトレンドであり、需要が飛躍的に伸びると考えられるのが磁石やレアアースなどの資源。
今はこれらは比較的安価であるが、今後の需要増に応じて価格の高騰は止めようがないのが現実。
またこれらの資源の産出と加工技術において世界トップにあるのが中国。
すなわち中国の成長も止められないということ。
こういう内容の記事でした。