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世界は夏休みシーズンに突入。マーケットも商いが低調となる中、ドル円に関してはそれほど細っておらず、その証拠に月間で2.25%も円安が進行しています。これはおそらく、投機筋が日本国債を売っているからでしょう。
この記事の要約
今回の記事では前回同様に、7月28日の日銀の金融政策決定会合での長期金利の誘導目標変更に端を発して再開された海外投機筋の日本国債売りと、その金価格への影響について解説。
なお、前回の記事は以下を参照。
https://kinkaimasu.jp/lounge/overseas_speculators_start_-selling_japanese_government_bonds/
ロシアのウクライナ侵攻を契機に拍車がかかったインフレを退治するため、各国がゼロ金利解除と量的緩和の縮小を行う中、低金利政策を維持し続ける日本。
そこに目をつけたのが海外の投機筋。
国内の機関投資家は、国債が0.7程度の利回りになれば日本国債を買い、一方の海外投機筋は、日本国債の金利が上がれば上がるほど目標を達成するので売るという対決構造。
さらに投機筋は円まで売ってくる。
日本国債売りは円売りと直結することから、金の価格はドル建てが低調となり、円建てが好調になってくる。
では、以下でその詳細をご確認ください。
長期金利誘導目標変更への国内機関投資家の反応
以下のグラフは、日本国債10年物利回りの1年間の推移になります。
2022年末に黒田前日銀総裁が長期金利の誘導目標を0.25から0.50に変更したことによって、金利が急騰しています。
その後、金融政策決定会合のたびにさらなる変更があるのではないかということで、金利が乱高下しましたが、今年4月に就任した植田新総裁がそれを否定したことによって、金利は落ち着きを取り戻しました。
ところが先般の7月28日の金融政策決定会合で、黒田前総裁と同様、サプライズの誘導目標変更、0.50から1.00がありました。
この変更に、国内の銀行や保険など大手機関投資家は好意的な評価を下しています。
理由は、今まで国内の機関投資家は、長期金利の目標が0.25から0.50であったために予定利回りに届かず、日本国債での運用を忌避していたところ、今回1.00となったため、運用を再開できるからです。
その予想金利レンジは、0.75から0.65くらいで推移するだろうとのことです。
つまり生保や銀行は、0.7程度の運用利益が出れば運用がやりやすくなると表明したようなもの。
これが国内の言い分になります。
低金利を維持する日本国債に目をつけた海外投機筋
これに対して、例えばアメリカの10年物国債の利回りがここのところ4%前後で推移しています。
他の国も日本よりも高い状況です。
この状態は、2022年にロシアがウクライナに侵攻するまでは、世界的に10年物国債はゼロ近傍から1%程度だったので、日本の金利の安さは容認されてきました。
ところがウクライナ侵攻が開始されると、主にユーロ圏でロシアの天然ガス供給の不安定さから、インフレが勃発しました。
要は、世界はインフレ退治に躍起となります。
結果、日本はまだコロナからの経済復興を成し得ていないということで、ゼロ金利、緩和拡大をしていますが、他の国々ではゼロ金利解除と量的緩和の縮小の結果、金利が上昇し始めています。
金利の世界は通貨と同じで、基軸であるドルの金利が上昇すれば、その他の通貨の金利も上昇するのが基本の構図です。
ところが、日本だけが低金利を維持する政策を行っている点に海外の投機筋が目をつけ、日本国債に空売りを仕掛け続けている、というのが実態になります。
つまり「日本だけ」がいつまでも低金利を続けるわけにはいかない、ということです。
国内機関投資家と海外投機筋の対立構造
0.7程度の運用を目指している国内の機関投資家は、国債が0.7程度の利回りになれば日本国債を買います。
反対に投機筋は、日本国債の金利が上がれば上がるほど目標を達成するので、売ります。
この対決構造になっているのです。
以下のグラフは、ここ1ヵ月ほどの日本国債金利利回りの推移になります。
7月28日の日銀金融政策決定会合で誘導目標を0.5から1.0にしたことで、金利は急騰し、だいたい0.6程度を基準に推移していることが観察できます。
両者のポジション比較
国内機関投資家と海外投機筋のポジションを考えてみましょう。
国内機関投資家は、0.6程度になると一斉に金利を買っています。
一方の投機筋は0.6では飽き足らず、0.6でも国債を売ることになります。
ただし、0.65程度まで行くと見合う量がなく、売りたくても売れない状態になります。
ところが8月も第2週になると、金利は0.6を下回ってきています。
そうなると、0.6程度での運用を目指している機関投資家は国債を買いませんが、投機筋は反対に価格が高いところが出るので、喜んで売ってくるという状態です。
以下のグラフのように、日本国債に緑線でドル円レートを追加すると歴然です。
金利が急降下すると、ドル円が大きく円安になっています。
これは投機筋が日本国債だけでは飽き足らずに円も売ってきているからです。
つまり、金利が安いときには大量に日本国債と円売りを浴びせ、金利が高くなると多くの機関投資家が0.6程度の運用を目指して国債を買ってくるので、0.65程度で利回りが止まる、というかたちになります。
国債のレンジはある程度決まっているように見えますが、ドル円のレンジはさらに切り上がっているのがわかるでしょう。
そして、この先に待ち構えているのは、大幅な円安になります。
金価格は今「円建てが先かドル建てが先か」の状態
ドル円が円安になるということは、すなわちドル高円です。
ドル高は、ドル建て金の値下がりにつながり、円建ては円安の恩恵を受けて上昇することになります。
結局、金は高いままで、最終的にはもっと高くなるでしょう。
つまり今の金価格は、「ニワトリが先かタマゴが先か」の議論同様、円建てが先行するのか、ドル建てが先行するのか、という状態になっているのです。