目次
ドル建て金が最近の高騰続きの中、大きな押し目を形成しています。
今回は、この点についてです。
この記事の要約
前回は、金価格を中心に貴金属や宝飾市場が需給相場に入るという根拠を説明。
https://kinkaimasu.jp/lounge/2023/03/02/reasons_why_gold_is_now_in_a_supply_and_demand_market/
しかしながら今回は、それらのマーケットがなぜ下がるのかということを主に解説。
その理由は、需給相場に入っても、ドルや金利との相関性が終わるわけではないということ。
つまり、日々の動きはドルと金利、長期では需給の効果が絶大。
しかし、その金の需給には具体的な統計がない。。。
そこでそのヒントになるのは中央銀行の買い付け、ドルコスト法。
そして今、アメリカの消費者は借金をしてまで買い物をしたがっている。
しかもそんな中、金融マーケットで一番上昇しているのは金。
1000ドル下がったからと言って落胆する必要なし!
それでは見ていきましょう。
なぜドル建て金は押し目を形成したのか?
まず、いつものように金価格の構成要因の確認です。
【1】ドル
【2】金利
【3】GDP(国内総生産)
+需給
このうち、2月2日にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、0.25の政策金利アップが発表されました。
以下のグラフは、最近1か月のドル建て金価格と米国債金利になります。

青の金利が上昇すると、2月から緑の金価格が下がってきています。
つまり需給相場に入っても、ドルや金利との相関性が終わるわけではないということです。
メインで動くのが需給であり、その間ドルが上昇したり金利が上昇したりすれば、日々の動きは大きく影響を受けます。
しかし長期的な効果では、ドルや金利が上昇しても金の価格は需給で上昇していくという意味になります。
つまり、安いところを買うほかないということです。
「需給は全ての面で価格に優先する」

「需給は全ての面で価格に優先する」、株式市場で昔から言われる格言です。
この格言はある意味、価格は需給が全てと言っているようなものです。
しかし実際、例えばワールドゴールドカウンシルの発表する需給は4半期に一度。
それ以外、世界的な需給を観察する統計はありません。
しかもその需給は常に均衡しているという発表なので、需要不足なのか供給不足なのか判然としない状態なのです。
なのに金の価格は毎日動いています。
皆が闇雲に売ったり、買ったりしているのかといえば違うわけです。
金はドルが高くなれば安くなり、安くなれば高くなるというように、通貨によって動いています。
金の日々の動きはドルと金利、長期では需給

金利は「ドル×金利」ですから、ドルの価格に準じます。
参考までに、ここで言うドルとは「ドル×金利」のことであり、すなわちドルインデックスを指します。
この価値が上下動することによって金価格が動いているのです。
この価格は毎日のように動いており、今回、2月に入って1000ドル近くも下落したのは、「ドル×金利=ドルインデックス」が上昇したからです。
日々の動きはこれで説明できますが、長期では需給の効果が絶大です。
例えば前回、1970年のニクソンショックによる金相場の自由化によって、金の価格は2400%程度上昇していることを確認しました。
一方でドルや金利、GDPで説明できるのは400%の上昇くらいのものです。
そのほかは、なぜ上昇したのか意味が分かりません。
これは謎なのですが、その他の部分を需給と仮定すると、大体の場合は納得できる内容となっています。
つまり1000ドル近く下落しても需給による買いは入っており、ただ投資家はそれ以外に判断材料がないので、ドルや金利が上昇した分だけ売っているのです。
そうすると需給分を売り過ぎることになり、ある日突然、安過ぎる分だけ金が急騰を演じます。
需給相場のヒントは中央銀行

金急騰のタイミングは、減産や多くの買い付けなどの事件がきっかけになるわけですが、統計などの発表次第の側面があり、基本的にいつになるか分かりません。
ただし、分かる方法はあります。
今の需給相場の購入主体は主に中央銀行です。
中央銀行は、各国の予算の執行によって購入量が決まります。
余分な国家予算で金を買うというような、気まぐれで決まるわけではありません。
まともな国家であれば、議会で予算が承認されてから金の購入を行うのであり、定期的に購入することになります。
その「定期的に購入する」という点がミソです。
毎月の決まった日付、月の1日に購入したり、5日や10日のゴトー日に購入したり、月末に購入するというような法則があります。
例えば上記の金のグラフは、10日に上昇してその後急落、15日には下げ止まりのような形をとっています。
つまり誰もが分かりやすい月初、月末やゴトー日のような日に買うケースが多いでしょう。
知っておきたいドルコスト法という購入方法

上記のような、一定数量を決まった日付に購入する方法をドルコスト法と言い、このような形の方がコストが安くなります。
純金積み立てもこの購入方法です。
投資家は、日々の値段によって購入しますが、昨今ブームのETF(上場投資信託)の運用者は、決まった日に買い付けてコストを下げているのは想像に難くありません。
あなたがファンドの運用者であったり、中央銀行の購入担当者であれば、ドルコスト法をとるのが自然でしょう。
その際には、誰にも分かりやすい日になる可能性の方が高い、ということです。
不景気で金を購入する人がいるのか?

中央銀行は、国民から徴収した税金を政策や金の購入に回すのですが、お金は潤沢にあると思った方がいいです。
ところが市井では、インフレの影響で家計が苦しくなっているというようなことばかり言われています。
例えば、住宅をローンで頭金なしで購入し、夫婦共働きでも生活が苦しい人は、このインフレで生活水準が下がるのは当たり前です。
日本ではその割合が7割にも上りますが、まともなリスク管理をしている人たちは、2〜3%のインフレで生活レベルが下がるような暮らしをしているはずがありません。
アメリカの6%のインフレでも同様です。
実質的な米金利の動向
では、実質的な金利はどうなっているのでしょうか。
下記は、特Aクラスの企業が資金を調達するときのコストです。
この実質的な金利は、現在マイナスになっています。
どういう意味かと言えば、借金を100万円しても返済は99万円になる、という意味です。
つまり借金をしない方が損であり、すればするほどお得なのです。
では、Bクラスの企業はどうなっているのかといえば、以下のようになっています。
Bクラスの企業でも実質の金利は1%程度、100万円借りても返済は101万円です。
日本のサラ金で借りれば上限金利が18%くらいですから、100万円の借金は1年で118万円。
これと比べればパラダイスと言えるでしょう。
アメリカ人のクレジット残高とホットな金
その結果、アメリカ人のクレジット残高は以下のようになっています。

毎月のように借金が増えていくような状況になります。
つまりアメリカの消費者は、借金をしてまで買い物をしたがっているのです。
なぜなら、返済が楽だからです。
このような状態は、コロナショックの最中にミーム株や暗号資産が買われたのと一緒です。
ただし、今回は手垢のついたビットコインやミーム株などは買わないでしょう。
その方向性が、金などの貴金属や宝飾に向かっているのは明らかです。
年初から金融マーケットで一番上昇しているのは、金になります。
そのくらい、他のものが値下がりしても金のマーケットはホットになっているのです。
1000ドル下がったからと言って落胆する必要はありません。
世界中の投資家が今後来るバブルで何を買おうかと物色している中、金を買おうとしているのです。
おそらく、ドル高や金利高を無視して安いところが買われてくるでしょう。