ハリー・ウィンストン社が所有する、世界で最大級のオレンジ・ダイヤモンド、パンプキン。ハロウィンの前日に落札されたことから、かぼちゃのジャック・オー・ランタンの色にちなんで命名されました。オレンジ・ダイヤモンドは珍しく、4カラット以上のものはごく稀です。5.54カラットでファンシー・ビビッド・オレンジ色をしたパンプキン・ダイヤモンドの歴史をお伝えします。
発見されたのは1997年
パンプキン・ダイヤモンドは、1997年に中央アフリカ共和国で発見されました。
11カラットもあった原石は、地元の農民によって見つけられたといわれています。この事から発見場所は沖積鉱床だったのでは?と憶測されています。
原石は見るからにブラウンダイヤたる茶色っぽい色合いをしており、決して人目を引くようなな色ではありませんでした。後に中央アフリカ共和国から南アフリカに輸出され、売りに出されました。
後日ニューヨークのダイヤモンド・ディーラー、ウィリアム ゴールドバーグ社(William Goldberg)のビル・ゴールドバーグがこのダイヤモンドに目をつけ、購入します。
そしてゴールドバーグ社がカットと研磨を施した結果、素晴らしいオレンジ色の輝きを放つパンプキン・ダイヤモンドが誕生することになったのです。
ファンシーカラーダイヤモンドは、カラーレスダイヤモンドとは違い、色の判定を「色相」(Hue)、「分布」(Distribution)を元に、特徴的なカラー(Characteristic Color)を「明度」(Tone)、「彩度」(Saturation)で表現する関係上、カットした際に起こる「色の分布」が変わった際に色が全く変わる場合が多くあります。
※有名なAll nat(Intense ⇒ Fancy vivid Yellow)も1ctもリカットしてVividに成り上げた良い例です。
それをラフダイヤの時点で見抜く(研磨済みだった?)ゴールドバーグ氏は、自身のカッター技術は無いまでも、稀代のダイヤモンドディーラーと言えるでしょう。
ウィリアム・ゴールドバーグ社がカット
パンプキン・ダイヤモンドのカット・研磨を行ったのは、以前ご紹介した「ムサイエフ・レッド」など、世界でも有名なダイヤモンドにカットを施している事で知られる、ウィリアム・ゴールドバーグ社。
カットするために持ち込まれたダイヤモンドの原石は、最初は見た目が地味な茶色の石でした。しかしカットが始まるやいなや、ダイヤモンドは見事なオレンジ色の輝きを放ちはじめたのです。ゴールドバーグ社の優れたクラフトマンシップにより、11カラットの原石は5.54カラットのクッション・カットとなって、まぶしく生まれ変わっりました。
GIAによって鑑定されたカラー評価は、ファンシー・ビビッド・オレンジ(Fancy Vivid Orange)。
全てのダイヤモンドの中でも、オレンジ色は非常に珍しく、その希少価値は大変高くなっています。
《ウィリアム・ゴールドバーグ社とは》
創始者ウィリアムゴールドバーグ率いる1950年代に創業した、ニューヨークを代表するダイヤモンドディーラー。
13.7ctのプレミアローズやベルガなど歴史的に有名なダイヤを数多く世に送り出し、プライベートブランドのASHOKAを有して現在に至ります。
下記偉大なダイヤモンドが彼らの有名な仕事の一部です。
| Name | Carat | Color | Shape | Other | |
| 1 | PREMIER ROSE | 137.02ct |
Pear shape
|
||
| 2 |
BLUE LILI
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30.06ct | Trapezoid shape | ||
| 3 | GUINEA STAR | 89.01ct | Shield shape | ||
| 4 |
RED SHIELD
|
5.11ct | Shield shape | ||
| 5 | BELUGA | 102.23c | Oval shape | ||
| 6 | BRIOLETTE | 75.51ct | Briolette shape | ||
| 7 |
PINK MUSE
|
8.9ct | Oval shape |
ファンシー・ビビッド・オレンジとは
オレンジ色のダイヤモンドが発見されるのは、ダイヤモンド全体の1パーセント以下。ピンクやレッド、ブルーのダイヤモンドと同様にめずらしいものといえるでしょう。
オレンジ・ダイヤモンドの産地は、主に南アフリカのプレミア鉱山とオーストラリアのアーガイル鉱山です。
ダイヤモンドがオレンジ色になる要因について、正確な理由はいまだ謎だそうです。可能性として、原石が地中で作られるあいだ、窒素原子が急速に集まり原子構造の配置に変化が起きた結果、青色とわずかな黄色を吸収するのでオレンジ色を発色する、という理由があげられています。
ほとんどのオレンジ・ダイヤモンドはⅠb型といわれています。
理由は、Ⅰa型ダイヤモンドように窒素原子が凝集しておらず別々に分散しているからです。
ダイヤモンドのオレンジ色が25パーセント以下の場合は、オレンジー(Orangey)ピンクなどと評価され、オレンジを発色するピンク、といった2番目の色合いとして説明されます。黄、茶色とともにオレンジは2番目の色として発色する事が一般的に多く、ファンシー・カラーとしてオレンジ単独で発色する事は非常に珍しいといえます。
鑑定においては、ファンシー・カラー評価で色の薄い順にFAINT, VERY LIGHT, LIGHT, FANCY LIGHT, FANCY, FANCY INTENSE, FANCY DEEP, そして最高のFANCY VIVIDとなります。
※しかしDark , Deep は総じて価値が下がります。
パンプキン・ダイヤモンドは天然のファンシー・ビビッド・オレンジと評価されています。天然で鮮やかなオレンジ色のダイヤモンドは非常に珍しく、5.54カラットのパンプキンは世界中でも最大級のオレンジ・ダイヤモンドとなります。
ハリー・ウィンストン社が購入
1997年、ハロウィンの前日(10月30日)。ニューヨークのサザビーズで行われたオークションに、オレンジ・ダイヤモンドが競売にかけられました。カット・研磨をして見事な宝石に仕上げた、ゴールドバーグ社が出品したものです。
競売の結果、ニューヨークの高級宝飾商ハリー・ウィンストン社のロナルド・ウィンストン氏が130万ドル(約1億3千万円)で落札しました。
ウィンストン氏は最初、このダイヤモンドを果物の名にちなんだ「タンジェリン」と名付ける事を望みました。しかし、購入したのがハロウィンの前日という事もあり、秋の祝祭にちなんだ「パンプキン」が良いのではとスタッフたちの強い勧めもあり、命名を決定したそうです。
ダイヤモンドを購入後、ロナルド・ウィンストンはデザイナーのフィリップ・ブロックとふたりでチームを組み、「パンプキン」をセッティングするためのジュエリー・デザインを始めます。
こうして製作されたのは、1800年代後半のアンティーク調で、クラシックなデザインをした、プラチナの指輪でした。
「パンプキン」は、特別なカットが施されたふたつの無色ダイヤモンドの間にマウントされました。
この指輪は、2002年のアカデミー賞授賞式で、ハリウッド女優のハル・ベリーが着用して大きな話題となります。
アカデミー賞授賞式でハル・ベリーが着用
「パンプキン」が世界中で注目を浴びたのは、2002年3月24日。第74回アカデミー賞授賞式での事でした。
映画「チョコレート(原題Monster’s Ball)」での主演女優賞を受賞したハル・ベリーが受賞時のスピーチでステージに上がった時、左手の小指に輝いていたのが、ハリー・ウィンストンが製作した「パンプキン」でした。
ハル・ベリーはアフリカ系アメリカ人。この日、非白人がオスカー史上初めてアカデミー主演女優賞を受賞したという、正にハリウッド映画界で歴史的快挙を成し遂げた日でもありました。
オスカーのブロンズ像を左手に持ち、ステージ上から家族や映画関係者に感謝の言葉を伝えるハル・ベリー。左手のピンキーリングとして着用した「パンプキン」が金色に眩しく輝き、オスカー像をもつ彼女により一層の名誉を与えているように見えました。
ハル・ベリーによるオスカー史上初の快挙と、世界最大のオレンジ色、パンプキン・ダイヤモンド。米国にとって、歴史の1ページに残る一夜となった事は間違いなさそうです。
この日、アカデミー最優秀女優賞にノミネートされていたハル・ベリー。
ほかにノミネートされていたのは、ジュディ・ディンチ、ニコール・キッドマン、シシ-・スペイセク、レネー・ゼルウィガーというベテラン女優達でした。彼女自身、オスカー受賞する事は夢にも思っていなかったそうです。
パンプキン・ダイヤモンドは、この日ロナルド・ウィンストンから彼女に着用するようにと貸し出されたものでした。
アカデミー賞を彩るセレブと宝石たち。レッド・カーペットでハリウッド女優達がハリー・ウィンストンのジュエリーを着用しているのは、定番となっています。
この伝統は、ロナルドの父、ハリーによって創案されたといっても過言ではないでしょう。
彼は常にダイヤモンド・ジュエリーをバッグにしのばせていたそう。顧客にふさわしい人物に出会うと、さりげなくその指にダイヤモンド・リングをスッとつけてあげていたそうです。
ダイヤモンドの輝きとその重さを、実際にそれも突然に自分の指で確認できるなんて、女性にとっては最高に嬉しいサプライズといえるでしょうね。
スミソニアン博物館に展示
2003年に米ワシントン州にあるスミソニアン博物館での「The Splendour of Diamonds」展覧会でパンプキン・ダイヤモンドが一般公開されました。
ハリー・ウィンストンが、この展覧会用に一時的に貸し出したものです。
パンプキンは指輪から外され、ミレニアム・スターなど世界で有数のダイヤモンド5点とともに展示されました。
スミソニアン博物館内の他のギャラリーでは、ハリー・ウィンストンから寄贈された、有名なホープ・ダイヤモンドを始め、ティファニーのパロマ・ピカソがデザインしたクンツァイトのネックレスなど、世界で名だたる宝飾品の数々が常時展示されています。
その他のオレンジ・ダイヤモンド
1882年、ロンドンのダイヤモンド・ディーラー、エドワード・ストリーターは自身の著書で、オレンジ色のダイヤモンドを「ファイア-・ダイヤモンド」と説明しています。
燃える炎のような温かい暖色。とてもふさわしい表現といえるでしょう。
パンプキン・ダイヤモンドがサザビーズで落札され、世界最大のオレンジ・ダイヤモンドとなったのは、1997年でした。
ハル・ベリーがオスカー受賞時に着用してから、オレンジ・ダイヤモンドの人気が高騰し、ファッションや投資としても注目を浴びました。
ダイヤモンドがオレンジのみの自然な発色をする事は非常にめずらしく、コレクターの目を引いたのも確かな事実です。
2011年、サザビーズのオークションにおいて4.19カラットでクッション・カット、ファンシー・ビビッド・オレンジ色のダイヤモンド「マンダリン・オレンジ」が290万ドル(約3億3千万円)で落札されます。ファンシー・ビビッド・オレンジのダイヤモンドでは、パンプキンをぬいて史上最高額を記録しました。
そして2013年、クリスティーズのオークションでは、14.82カラットという大きさののファンシー・ビビッド・オレンジ色のダイヤモンドが競売にかけられました。5.54カラットのパンプキンよりかなり大きなカラット数です。
14.82カラットのダイヤモンドの名前は「ザ・オレンジ」。
最終的に3554万ドル(約40億8千万円)で落札されました。
現在では、この「ザ・オレンジ」が世界最大のオレンジ・ダイヤモンドとなっています。
そしてパンプキンは幻に。
ブルー、ピンク、レッドと並んで、採掘量が極めて少なく、とても希少価値の高いファンシー・カラーのひとつである、オレンジ・ダイヤモンド。
見栄えのしない茶色い原石であったパンプキンは、ゴールドバーグ社によって見事に磨かれ、世界で有名なダイヤモンドを所有するハリー・ウィンストン社のコレクションのひとつとして、輝く事になりました。
パンプキンは、2005年に匿名のバイヤーによって300万ドル(約3億4千5百万円)で買い取られたなどという、真しやかな噂もたっているようですが、真実は定かではないそうです。
まさに「パンプキン」の名の如く、ハロウィンの様に霞みに消えた幻のダイヤモンドと言えるかもしれません。

















