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2014年4月から2期10年を務めた日本銀行(日銀)の黒田総裁が4月8日で退任しました。
この記事の要約
今回の記事では、黒田日銀総裁がもたらした恩恵と副作用を考えていけば、その施策はさまざまな問題を抱えていたものの、時代の要請ではあったと言えるだろう。
結局、極度のデフレは脱せたが、慢性的なデフレに対しては何もできなかったというのが評価になると思われる。
2013年当時のように為替が80円、株価が7000円なんて状態が今日まで続いていれば、日本経済はその辺の新興国とあまり変わらない状態になり、日本人全員が貧乏になっていただろう。
その辺を救った功績は素晴らしいが、晩年に何をやってもデフレから脱出できなかったことは、多くの国民にとって不満になったと言える。
それでは見ていきましょう。
黒田日銀総裁の人柄

黒田東彦日銀総裁は大蔵省に入省後、財務官まで勤め上げ、アジア開発銀行総裁を務めました。
その後、当時の安倍首相にスカウトされて現職となり、4月8日で退任という形になります。
この経歴から、誰が見てもエリート街道を突っ走った人で、国際的にも「金融専門家」、「学者」としても極めて評価の高い方です。
ただ一方で権威主義の側面もあり、根本的には国民の意見を聞く、そして国民に丁寧に説明するという意識が希薄な方という批判は、身内である財務省や日銀からも聞かれました。
こうした点は、その発言が聞き取りづらい金融政策決定会合後の会見に表れていると言えるでしょう。
これは、根本的には記者の勉強不足で同じ質問を何度も繰り返し、そのたびに総裁が「先ほども申し上げました通り」、「繰り返しになりますが」という言葉が何度も聞かれたと思います。
首相会見でもおなじみの光景であり、同じような質問を繰り返す記者の見識には非常に疑問が持たれます。
何度も同じことを聞けば、そのうち本音がポロリというのを狙っているのでしょうが、百戦錬磨の政治家や官僚相手には、そんなことは滅多にないでしょう。
ただしそういう面を差し引いても、黒田総裁の説明は理解しづらい部分があり、肝心なことを聞いてもはぐらかす側面があったことは否定できません。
異次元緩和という功績
黒田総裁といえば、就任直後の異次元緩和が有名になります。
日銀が政府発行の国債を民間銀行から買い取り、そのお金を流通させることによって日本経済を浮揚させるという政策です。
当時の日本経済は、東日本大震災の影響とその後の民主党政権のお粗末さでデフレと円高、株安が同時進行するという異常事態。
そのフェーズを安倍元首相とタッグを組んで異次元緩和を行いました。
その結果は下記の株価に表れます。

2014年4月から異次元緩和がスタートし、1万円割れだった株価がピークで3万円まで行きました。
この功績は素晴らしいものであり、震災で自信を失った日本人に希望を見出したと言えるでしょう。
晩節の、何をやっても結果が残らないという状態ではなく、日本国中が黒田総裁の一言一言に注目したものでした。
しかし最近では誰も何も聞いていない状態になったのは、結局、自身の言葉のわかりにくさ、説明責任の放棄などに原因があると言えます。
ただし、これらのことを差し引いても、初期の黒田総裁の功績は特筆すべきものだと言えるでしょう。
コロナ復興と黒田日銀

上記の株価、2014年からトビウオのように勢いよくロケット発射となりましたが、2015年初頭には早くも失速しました。
これは、アメリカの景況が冷え込んだこともありますが、一番の理由は中国発の上海ショックと考えられます。
ご存知のように、リーマンショックを経て最初に景気回復を果たした中国でしたが、この上海株の急落によって世界中の株価も下落しました。
同様に、今回のコロナショックでも中国がいの一番に経済活動を再開させました。
ところが昨年は、欧米がマスクなしで経済再開し始めたのを尻目に、ロックダウンなどを行い中国の景気が停滞したことです。
2015年のリーマンショックから7年が経過しているとはいえ、大きな景気後退が最初に起こるのも中国ということを忘れてはいけません。
ただし日本も、欧米と比較するとコロナ復興が大きく遅れていることはご承知でしょう。
そこで黒田総裁はマイナス金利の導入とYCC(イールド・カーブ・コントロール)を導入しました。
マイナス金利とは、読んで字のごとく金利をマイナスにすることで一層の資本流入を促進しようという政策です。
結果、株価のさらなる上伸が見込まれましたが、先述のグラフのように2020年くらいまではさえない展開となりました。
YCCについて

一方のYCCとは、金利のコントロールという意味になります。
金利は人によって借金の期間は違うわけで、国家の借金である国債もその期間によって金利が違います。
例えば、1年物の金利と30年物の金利では、30年物の方が返済期限が長いので金利が高くなるのが常です。
ところが日本経済は長い間デフレに苦しみ、マイナス金利を導入し、短期的に経済を活性化しても長期的にはまたデフレに陥ることが見込まれたので、長い期間の金利をプラスにすることでデフレ脱却を目指すことになります。
あの当時の日本経済、現在でもそうですが、一時的にインフレになっても、10年や30年というスパンでデフレになってしまうことを見込んで、短期金利が上昇しても長期金利は下落してしまう、という形になったのです。
それを意図的に修正しようということで、短い金利を安く、長い金利を高い方向に金利を修正するというのがYCCになります。
また、短い金利をマイナスにして、さらにデフレが継続すれば長期金利もマイナスになる危険性をはらんでいたので、長期金利を高く誘導しようとしたことがYCCです。
この結果は、現在の株価は2015年価格よりも高い状態になっていますが、2014年に異次元緩和を行ったような目立った成果はありません。
一方で副作用として、大きな悪癖を生み出しました。
資産購入プログラムについて

最初の異次元緩和は華々しいものでしたが、その後のマイナス金利やYCCの成果は目立ったものはありませんでした。
そこで日銀は2017年くらいから、資産購入プログラムを開始します。
これは、実際に流通している株式や社債などを日銀が買い取るというプログラムになります。
実際にこの資産購入プログラムを開始してからは、株価の1万円割れははるか昔のこととなり、上昇水準を保ちました。
一方では実感のない株価上昇ということから、多くの批判を集めることにもなります。
最近ではコロナショックによって株価が大きく下落したことによって、それを買い支えることで株価は順調に回復していると思われます。
マイナス金利の副作用
このように、黒田日銀には3つのフェーズがありました。
以下に整理すると、
1.異次元緩和バズーカ
2.マイナス金利、YCC
3.資産購入プログラム
1.の異次元緩和は誰もが思いもしなかった成果を上げ、後半の8年も同じような成果を上げることを期待しました。
しかし初期の効果は上げられず、期待を裏切ったということで信認を失っていたことも事実です。
それでは特に2.と3.に関して、副作用を見ていきましょう。
まず、マイナス金利によってモラルハザードが起こることが懸念されました。
100万円の借金をして金利をマイナスにするということは、年々返済金額が減っていくという意味を持ちます。
つまり1年後に返済する金額は99万円になり、10年後には90万円です。
当時、預金もそうなるのではないかという懸念がありましたが、日銀の施策によってそれは起こりませんでした。
この制度で一番得をするのは日本政府で、実際にマイナス金利になれば返済金額は減少していく結果となります。
その結果、日本中の隅々まで補助金というお金がばらまかれていたのが現実です。
日本が借金大国であっても返済金額が減っていくのであれば、年々予算が増大していくのは当然の帰結になります。
ただしこれは日銀がやったことではなく、政府がその恩恵を受けて予算を拡大させ、それを承認していた国会の責任です。
この辺を区別しないといけません。
YCCの副作用

そのほか、金利をコントロール(YCC)するということは、実際にはデフレなのに、長い年月の金利はどんどん上がっていくという現象が起こります。
実際の経済とは全く違う国債市場、金利市場なので、日本国債市場の空洞化が進行することになります。
国債市場とは日本の生命線と言ってもよく、この国債市場が実際の商いが少なく、ほとんどの金融機関で働く国債ディーラーが現実に失職しています。
またその運用を行う金融機関、特に地方銀行、信金、信組などの経営不安も多発しました。
現在でもその状況は続いています。
ゆえに今、ゆうちょ銀行の政府保有分の売却や商工中金の民営化などが行われ、将来、地方銀行などの再編などが行われるというウワサが絶えません。
ここのところ金融安定化指数という指数が過去最悪になっており、これが注目されるのはそのためです。
資産購入プログラムの副作用

さらに資産購入プログラムにおいては、上記の国債市場が空洞化するということは一般の事業会社が借金をするのに社債を発行しますが、その社債によっての資金調達が困難になり、結果として日銀が買い入れを行うという結果になっています。
企業にとっては社債での資金調達はコストの安い方法であり、重用されていたのですが、魅力のない金利に誰もが取引をしなくなった結果、日銀が買い取らざるを得ない状況に陥りました。
世界の国々がインフレを成長の機会と捉え、株価が躍進していく中、日本は相変わらずのデフレ社会であり、株価も世界の株価と比肩しても相当安い状態だったので、それをも買い取りしたという結果です。
結果は、2017年以降やコロナショックでも株価はそれほど下がらないという側面はありますが、日銀が日本の主要企業の筆頭株主になってしまうという弊害をも持ち合わせています。
根本的に日銀は国の機関です。
日銀が筆頭株主ということは、国が株主総会に役員を派遣できるという、むしろ社会主義のような資本主義国家になったという批判も多くあります。
ただし、この筆頭株主を利用して、日銀や政府が役員を送りこむような日本の価値観をひっくり返すようなことは今後もないでしょう。
このようなさまざまな弊害と初期の成功を織り込んだ黒田施策の10年でした。
黒田総裁の功績の総括

黒田総裁の功績については、世間一般で言われるほど悪いものではないということが言えるでしょう。
安倍・黒田コンビが重視したのは、為替と株式市場でした。
黒田総裁以前のドル円相場は、1ドル80〜100円が当たり前でした。
少しでも世界的な危機が持ち込まれると円高となり、ボラタリティも非常に高いものでしたが、去年は150円があったとはいえ、現在は110〜130円で安定的に推移しています。
株式市場については上記で触れたように、1万円とか7000円というおおよそ日本経済に見合わない実力の株価になるようなことはなくなりました。
この点だけでも大きなパラダイムシフトと言えるでしょう。
副作用の総括

副作用の方を見ていくと、国の生命線とも言える国債市場の空洞化が促進され、金融機関に対する経営懸念が台頭したことが挙げられます。
国債市場が国の生命線という意味は、誰が国の借金の主体を持つのかという問題です。
日本に1200兆円の借金があるということは、貸してくれる人がいるから成り立つ話であり、その主体は市場によってコロコロ変わることが可能でした。
例えばあなたが国に1億円を貸し付け、事業を拡大したいのでその返済を求めても、急に言われても借りた人は困ることになります。
そこで市場が替わりに貸してくれる人を探すので、借りた人も急に返済を迫られずに助かるという機能があります。
ところが、この機能を日銀がYCCを行うことによって低下させてしまいました。
最後の貸し手としての日銀の地位が盤石なうちはいいですが、何がしかの理由で日銀が貸せないという状態に陥れば、日本は即座にデフォルトとなり、金価格が急騰することになるでしょう。
日銀が最後の貸し手ということが絶対的に確かなのか、ということが問題です。
株式や社債の購入も同じことです。
日銀が安定的に買ってくれるので、経営者は株価や借金を気にせずに経営に勤しむことができるのです。
しかし、何らかの理由で日銀が買い付けられなくなった場合、日銀が売却しなくてはいけない理由ができた場合、買われた会社は安定的な経営ができるのかという問題が発生してしまうのです。

















