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キダルト[Kidult]

2018/04/26

｢グラフィティ(落書き)｣という手段を使い、権力者やラグジュアリーブランドといった拝金主義の象徴に向かって挑戦状をたたきつける、正体が一切明らかにされていないアーティスト･キダルト。日本でも2016年8月にエキシビションVisual Rapeが48時間限定で開催された事によって、一気に知名度が上がりました。この記事では、キダルトのアーティストとしての経歴や、話題となったアート作品についてご紹介します。

キダルトというアーティスト

パリで生まれ、現在ニューヨークに暮らしているという事以外、一切のプロフィールが不明とされるキダルト。

公共の場である道路や、世界的に有名なショップのウィンドウへの落書きという犯罪行動をとる以上、当然顔写真なども一切明らかにされていません。

キダルト自身が開設したホームページがありブログページもありますが、2018年1月時点においては、2016年の日本でのエキシビジョンのポスターを最後に更新されていません。

▼キダルト　ブログページ▼

http://blog.kidultone.com/

キダルトのグラフィティアートとは

キダルトは自身のホームページで、｢落書きは私のメガホン｣と宣言しています。

そのアートスタイルは、自身が反逆の対象としている組織と一般の人々に対して、意識の目覚めを促すメッセージを、落書きを中心とした創作活動で表現するというものです。

また、キダルトはSNSやビジュアルを利用する事に長けており、早い時期から注目を集める事に成功しました。

例えば、自分のアートを広める方法として、ティーザー広告の利用があります。

ティーザーとは、宣伝したい商品をあえて直接取り上げず、一見無関係な映像や音楽を流し、逆に見る人にイメージをかきたてる事で注目を集める宣伝方法です。

英語の動詞｢tease(じらす)｣から生まれた造語ですが、キダルトはこのティーザーによる予告によって、自らのアートを更に盛り上げる事を狙います。

キダルトの名前を耳にすると、どうしても｢過激｣、｢落書きの延長｣、｢反社会的｣といったイメージが先行しがちです。

しかし、その作品発表の舞台装置の奇抜さにとらわれ過ぎずに、現代アートの中心的表現である｢グラフィティ｣、｢インスタレーション｣の一つの流れであるとシンプルにとらえたほうが理解しやすいでしょう。

そして、時にはアーティストが自らの社会的立場を犠牲にして展開する反逆的な世界をのぞいてみる事は、自分の知らなかった世界を教えてくれる大きな刺激になるものです。

キダルトは日本にもやってきていた

2016年に開催された、キダルトによる日本で初めての個展であったエキシビジョンVisual Rapeは、東京の表参道駅の近くにある、緑が美しい中庭が評判のイベントスペースBA-TSU ART GALLERYで行われました。

数日前からキダルトが自身のInstagramで周知したり、東京各所でゲリラ的に作品が販売された事により、多くの人がイベント開催場所のBA-TSU ART GALLERYに詰めかけ、連日人が訪れるなど、賑わいのうちに終了しました。

また、落書きで知られたキダルトの新しいアート表現、立体作品シリーズの発表とあって、一般のファン以外にも多くの美術関係者の注目を集めました。

展示作品の一番の目玉は、シャネルのショップの模型の上に施された｢KIDULT HELL｣のタキング(落書き)で、キダルトらしいグラフィティアートでした。

一つ一つの作品にキダルトのサイン、ナンバリングが入る事がコレクター心理を刺激し、更に東京でのみ販売されたブラックバージョンは限定50点のみとあって瞬く間に完売しました。

その他にも金満家とされるドナルド･トランプが、安価で人気のカジュアルブランド｢シュプリーム(Supreme)｣のTシャツを着用したポスターや、｢ルイ･ヴィトン(LOUIS VUITTON)｣のモノグラムに酷似した柄のギロチンのインスタレーション(展示空間をオブジェを使って表現する)など、現代の資本主義社会を皮肉を込めて表現した作品が展示販売されました。

▼キダルト　インスタグラム▼

https://www.instagram.com/kidultoneofficial/

キダルトを有名にした落書き

キダルトの名が知られるようになった落書きアートは、消火器を改造した巨大な噴霧器によってブランドショップのウィンドウに落書きするというものです。

例えばエルメスのパリ店では、ウィンドウ一杯に大きな｢Love｣の文字が、マーク･ジェイコブスのニューヨークソーホー店では｢Art｣の文字がペイントされました。

また、そのどちらも、その光景をプリントしたTシャツを無料で配布した事で話題となりました。

現代アートに理解のあるマーク･ジェイコブスは、そのTシャツが気に入り、同じデザインのTシャツを686ドルで販売します。

怒ったキダルトは、今度はパリ店に蛍光色のグリーンで｢686ドル｣とペイントして反撃しました。

その他、アニエスベーやクリスチャン･ルブタンなどあらゆる有名ブランドがキダルトの落書きの標的となったのです。

落書きを立派なアートに仕上げる奇才

キダルトをはじめグラフィティアーティストの創作活動は、一見すると子供の落書きの延長にも見えます。

しかし、現在では現代美術の手法の一つとして認められており、美術市場では多額のお金が動く人気アートジャンルです。

人気に拍車をかけたきっかけの一つが、1983年公開の映画｢ワイルド･スタイル｣です。

現在は大学講師を務める著名なグラフィティアーティスト、レイディー･ピンクらによって、グラフィティ文化をはじめとするヒップホップ･ムーヴメントが紹介された事もあって、グラフィティアート活動は世界中に広がりました。

2017年にはサザビーズのオークションで、バスキアの無題の肖像画が1億1050万ドル(約123億円)で落札された事も記憶に新しいです。

キダルト以外のグラフィティアーティスト

キダルト以外にも、数々の著名なグラフィティアーティスト達が活動しています。

何名かピックアップして、ご紹介したいと思います。

バンクシー(BANKSY)

キダルト同様に、年齢その他のパーソナルデータは非公開の英国出身のアーティストです。

しかしながら何度か逮捕のニュースが出ており、2018年現時点で40歳前後の男性である事は間違いないようです。

有名な美術館に、自らの作品を無断で設置するという大胆な行動をとる事で知られており、自国の最高権威である大英帝国博物館には、ショッピングカートを押す人を描いた｢遺跡のかけら｣とされる作品を設置しました。

しかし、これは後に同博物館の正式なコレクションに追加されたというエピソードが残っています。

▼バンクシー(BANKSY) オフィシャルページ▼

http://banksy.co.uk/

キース･へリング(Keith Haring)

日本人の私達には、国内ファストブランドのTシャツシリーズでもおなじみのキース･へリング。

1958年にアメリカで生まれたグラフィティアーティストで、現代のストリートアートの先駆者です。

ニューヨークの地下鉄をつなぐ通路にある、巨大な広告版に描かれた作品から人気に火が付き、世界各国の壁画を手掛けました。

日本でも人気が高く、2007年には八ヶ岳に中村キース･ヘリング美術館が設立されました。

過激な作風のキダルトとは異なり、あくまで｢LOVE&PEACE｣をテーマとした絵を描くキース･へリングのサブェイドローイングは、コミカルでどこか温かみがあり、現在もトップグラフィティアーティストとして尊敬を集めています。

その作品の特徴は、複雑なラインは一切ないシンプルな線と単純な原色で表現されているところにあり、幼い子供にもすぐ受け入れられる明快さが人気を呼びました。

ジャン＝ミシェル･バスキア(Jean-Michel Basquiat)

1960年生まれの生粋のニューヨーカーだったジャン＝ミシェル･バスキアは、ハイチ出身の父親とプエルトリコ出身の母親の間で生まれました。

絵が好きだった母親の影響で、早くから絵画の才能を発揮します。

その生涯を描いた1996年公開の映画｢バスキア｣にある通り、1970年代後半にマンハッタンで落書きを繰り返す｢SAMO｣の1人になったり、ロック･バンドTest Pattern(Gray)を結成したりするなど多彩な活動を繰り広げています。

1980年代初頭から現代美術家として成功をおさめ、単語や数字、記号などあらゆる種類のテキストやコードをあらゆる対象物に描く表現スタイルは｢原住民が描くプリミティブアートに共通する｣として高く評価されました。

▼ジャン＝ミシェル･バスキア(Jean-Michel Basquiat)　オフィシャルページ▼

http://www.basquiat.com/

キダルトのアートを手に入れるには

一般的な販売対象になりにくい事から、キダルトのアート作品を随時販売しているギャラリーは国内にはないようです。

しかし、キダルトのアートは全く手に入らないという事ではありません。

結論から言えば、タイミングによってはキダルト･アートは入手可能ですし、また比較的安価に入手する事が出来ます。

例えば世界各国で開催されるイベント時にはポスターやTシャツが販売されており、キダルトのホームページではショップページが用意されています。

また、｢作品売上の収入は慈善団体に寄付｣との文言があり、主義主張に反するという意味でも、自身の作品でお金を儲けるつもりはないのかもしれません。

▼キダルト(kidult)　オフィシャルページ▼
http://kidultone.com/

キダルトの創作活動への思い

キダルトの創作活動は、ゲリラ的に行われる(ように見える)ブランドショップの落書きに代表されます。

公衆道徳に反しているとも言え、賛否両論分かれる事は確かです。

しかしその一方で、キダルトのアーティストとしての秘めた思いである｢権威･拝金主義に対する反逆｣、｢既存システムを利用したゲリラ活動｣を知ると、また違った見方が出来る事に気づかされます。

キダルトのアートが問いかけるものは何なのか、そこを意識してみる事で、更にキダルト･ワールドが楽しめる事でしょう。

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